ジャック

黄金のアデーレ 名画の帰還のジャックのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

黄金に輝くクリムトの名画「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像I」にはこんな歴史があったのか…。正直、クリムトの作品はそんなに好きではない。最近、日本では琳派ブームで、あの金ピカの画風はクリムトにも影響を与えたとされているが、どうも成金趣味のようで毒々しく感じてしまう。映画は叔母がモデルだったこの作品をオーストリアから取り戻すというマリアの過去と裁判を巡る調査が交互に描かれ、ナチスがオーストリアに台頭していく時代を見つめる。青年、子供がユダヤ人の家にペンキでレッテル貼りをしていく姿に、もしかしたらそんな時代がもうすぐそこに来ているのかもしれないとも思う。

部屋の壁には様々な名画が飾られ、父はチェロを趣味で奏で、音楽とダンス満ち足りた生活があった。それをナチスが踏みにじり、略奪をしていく過程は他の作品でも幾度も見ている。マリアたちが父母を祖国に残し、アメリカへ脱出する場面には、緊張感が走る。ナチスに併合される国の中、体制に順応せず彼女らを助けようとする人たちもほんの少しのシーンだが描かれている。

「アデーレ」の価値は世界的なもの、裁判を戦う中でまったく理不尽な略奪行為を今なお国家が正当化しようとする。一方、この高額な美術品は、マリアの叔母をモデルにし、マリアの家のいわば家宝だったもの。だが、勝訴しても、個人が管理することは出来ないとなれば結果的にはアメリカの美術館に渡るわけだから、その正当性は理解できても感情的なものが残らないのだろうか。果たしてこれは本当に帰還なのだろうか?
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