リッキー

黄金のアデーレ 名画の帰還のリッキーのレビュー・感想・評価

3.7
899本目。
作品のタイトルより「盗まれた絵画を犯罪者から取り戻す物語」程度の理解で鑑賞したため,当時のいろいろな歴史背景を知ることとなり,いかに自分の知識が浅かったことかを思い知らされました。

グスタフ・クリムトが描いた「黄金のアデーレ」は傑作のため「オーストリアのモナ・リザ」とも讃えられている名画です。
第2次世界大戦中にナチスドイツにより,当時ウィーンに住んでいた家から略奪された名画が、現在、オーストリア政府が所有しており、この名画をめぐりアメリカに亡命したユダヤ人女性が所有権を主張し裁判になる物語です。
訴訟を起こした女性マリア・アルトマンを大御所ヘレン・ミレンで気品があり,キュートでユーモアに溢れた演技は圧巻です。

当時のウィーンのオーストリア人がこんなにナチスに協力的であったことが今回初めて知りました。
ユダヤ人を四つん這いにして道路を磨かせ,財産は没収し,公衆の中,シンボルである長い髪を断髪する屈辱のシーンがありいたたまれない気持ちになります。
このようなことはドイツでは行われていましたが,まさかオーストリアでも行われていたとは…。
それにウィーン市民が当たり前のような顔で傍観しているシーンには,自分が描いていたウィーン像が崩れ落ちてしまった。

絵画の所有権を訴えると,当然ながら当時のオーストリア政府の対応や,市民がユダヤ人にとった事実が公にでてきます。臭いものには蓋をするように過去のことを蒸し返させたくない国民感情が働き,容易でない問題であることがわかります。
想像していた良作に途中から涙が止まらなくなりました。
物語が家族の絆と望郷の念に集中させた手法が素晴らしかったです。

弁護士はマリアのために妻の出産時も裁判のために付き添えず、弁護士事務所も退職し懸命に弁護する姿には感動しました。しかし彼は彼女の不遇時代のエピソードを直接聞いているシーンがなかったように思えます。欲をいうと直接彼に語りかけ、彼の心情が揺れ動くシーンなどあったらもっとよかったかと思います。
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