エソラゴト

黄金のアデーレ 名画の帰還のエソラゴトのレビュー・感想・評価

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老女と弁護士、それぞれの「正義」と「誇り」ー。

ヘレン・ミレン演じる主人公マリア・アルトマンにとっての「正義」とは、第二次大戦中ナチスにより強奪された自身の伯母の肖像画であるクリムトの名画「黄金のアデーレ」を自分のもとへ取り戻すことー。

それは彼女にとって生きる為に親を捨て祖国も捨てた自身の過去の清算、決着という意味合いが強いもの。(ドイツ占領下とはいえオーストリア国民自身がナチスに加担してユダヤ人迫害を推し進めたことに対する断罪の意味も)

彼女に雇われた弁護士のランディにとっての「正義」とは弁護士としての当然の職務=雇い主の命に応じて迅速に物事を解決すること。当初はその絵画の莫大な評価額からお金や名声目的だった彼もマリアと共に訪れたウィーンで彼女だけでなく彼自身の親族の過去に触れることで、彼女の過去の決着自体が他人事ではなく自分達やその子供達のこれからの未来へと繋がることに気付かされ彼女以上にこの「正義」に対する闘いにのめり込んでいくことに…。

そんな2人にとっての「誇り」とはルーツがオーストリア人であるということ。何度も裏切られ失望するも祖国とはかけがえの無い存在。また劇中で、ウィーンで出会うオーストリア人新聞記者は親ナチス派だった父に対して真摯に向き合い、彼女らとはまた違ったオーストリア人としての「誇り」を胸に2人に協力する姿にも心打たれる。

「正義」とは何かー。
いつの時代もこの命題に対する的確で明確な答えは見つからない…。今もなお、お互いの「正義」を振りかざし争い事が起こる事は国家間でも人間関係でも同じこと。それはどちら側の「正義」も等しく正しいから…。

間違えや誤りをきちんと認めることー。
月並みで単純な考えなのは承知の上で敢えて言うならば、ほんの些細なそういった理解をお互いが深めることが争い事の解決の近道であることだと自分は思う。(しかし、それがそう上手くいかないのもまた動かしようの無い現実…)

『イミテーション・ゲーム』同様、戦後70年以上を経た現在歴史に埋もれかけていた真実を知ることの意義深さと、それを後世にも語り継いでいくことの大切さを教えてくれる素晴らしい作品。