円柱野郎

完全なるチェックメイトの円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

完全なるチェックメイト(2014年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

トビー・マグワイアは、ボビー・フィッシャーの奇行が次第にエスカレートしていく様子を段階的に、そして繊細に演じていて、神経がすり減っていく様が実にサスペンスフル。
天才と奇人の紙一重な感じからいうとフィッシャーは川を渡って奇人の方へ行ってしまった人なんだろう。
ただ、幼少期から描かれるフィッシャーの様子からして元からそういった神経症的な感じがあった感じもする。
チェスが故に天才と呼ばれ、一方チェスによって精神的に悪い方へいったとするならば皮肉な物語だよなあ。
フィッシャーへの精神科の治療の話が出た時、セコンドの神父・ロンバーディー(ピーター・サースガード)がその精神性とチェスの才能が不可分であるという話をしたが、彼が彼たりうる事が彼にとって本当に幸せだったのかは、俺にはよく分からない。
しかし彼はソ連のチェス王者スパスキーに勝利し、歴史に名を刻んだ。

相手のスパスキーも程度の差はあれどフィッシャーと同じように神経質であるように描かれる。
政治的指導者からのプレッシャー、世間の注目、監視の目の疑念。
チェスの頂上決戦というだけでは済まない注目度は、冷戦の代理戦争に巻き込まれた時代の不運でもあったのかもしれないなあと思った次第。
しかし逆説的に言えば、冷戦中でなければこの様に歴史に名を刻む事もなかったのかもしれない。

演出は確かだが少々ストイックさが強い。
天才の思考を表現するに、例えば序盤の盤上で文字が浮かぶというような演出は後半では使われなかったね。
ひらめきの表現として「ビューティフル・マインド」の様なビジュアルで見せても面白いと思ったのだけど、この映画の主題はきっとそこ(天才の表現)ではないのだろう。
原題"PAWN SACRIFICE"にもあるように、冷戦構造の中でのチェスの駒になった犠牲者の物語か。