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完全なるチェックメイトのpikaのレビュー・感想・評価

完全なるチェックメイト(2014年製作の映画)
5.0
超超超最高!!ツボにガンガンきた。ちょーーたまらん!!最高!!
一見狂人に見える人、常識に囚われていない人、多くの人とは見ているものが違う人が大好きなのでめちゃくちゃ良かった。世間と歩調を合わせられないが既存の世の中にないものを生み出せる人。あぁ、なんて素晴らしいことか。幸福になって欲しいと願いながら見ていてもそうだよな、生きづらいよなと泣けてくる。
トビー・マグワイアは今作を最後に出演作がないから役者以外に何かしているのかなと調べたら単純にオファーがないだけだと知って驚いたんだがそれって狂気的な役がハマり過ぎて合う役が見つからないってことなんじゃとゲスってしまうくらいハマってた。『マイ・ブラザー』でも変わり果てた兄を好演していたし、トビーのこういう演技は本当に素晴らしい。

実在の人物の内面にかなり踏み込んだ映画だが『実話に基づいた』としてすべてが事実ではないからここまで描けていて、だからこそ映画として映える。
母への憧憬、姉の存在、アメリカを背負わされる精神的な負担。
『静かなところで』『チェスは二人が対面してプレイするだけ』という一貫した姿勢。
狂人として描きながらも丁寧に配慮した演出からフィッシャーへのリスペクトを感じる。
ここまでフィクションで見せきれたのだから実際のフィッシャーの映像はない方が良かったと思うがそれまでが余りあるほど素晴らしかったのでオマケとして考えれば許容範囲。常套手段だし。しかしこういうエンディングを見ると『モンパルナスの灯』の素晴らしさがなおさら映えるなと。

神の一手を追い求める天才たまらん。『ヒカルの碁』『聖の青春』などなど。フィッシャーは神の一手を打ったんだ。あー、思い出すだけで痺れる。
リーヴ・シュレイバーが不戦勝した日の夜中?朝方?部屋で一人チェス盤を前に座って向かいにある空席を眺めているシーン、『ヒカルの碁』で一人碁盤を前に佐為を待つ塔矢名人のシーンみたいじゃないか!と興奮した。ニュアンスは違ったが。
よくある演出なんだけど3戦目まではフィッシャーに焦点を当て、それ以後はリーヴ・シュレイバーの方に切り替わるやつ、ベタだけど上がる。万雷の拍手の中何とも言えない表情で去るトビー・マグワイアが最高。
狙われてる云々の妄想シーン、ノイズが気になって集中が削がれるシーン、良い。上手い。姉との電話シーンも素晴らしい。ちょっと変だよね?というさり気ない変化から常軌を逸した言動を始める流れを自然に見せている。演技をしているように見えない。
子供の頃からチェスしかしない、初セックス後もチェスばかりで精神安定のために常にミニチェス盤を開き、お付きのセコンド神父とエアチェスをする。
天才とは与えられた才能以外の生活全てを選択せず一つのことだけをやり続ける能力みたいな言葉があるけどまさにそれを体言させている描写の数々が最高。

フィッシャーが少しずつ見えないものに囚われていく展開とそれを冷静に分析する弁護士とセコンド神父。才能と国への貢献のために無理難題で困らせるフィッシャーを支え続ける。
激高したフィッシャーの気持ちを切り替えさせるためにセコンド神父がすぐにエアチェスを仕掛けるところが凄くいい。わーわーと慌てふためく弁護士とフィッシャーに挟まれ自分だけは冷静に居まいと常に本を手に集中して気を紛らわせようとしている。絶対集中できてないんだけどそうしようとしている描写が凄くいい。
『負けるのが怖いからあんな無茶苦茶をするんだ』という弁護士に対して『勝ったあとが怖いんだ』と言う。
勝敗以外のフィッシャーの凄さをサースガードの反応で見せている。出会ったときにサースガードの棋譜からミスを指摘し『こうすれば勝てた』と見せて思わず神父であるサースガードが『HOLY SHIT!!』と言ってしまうくだりからクライマックスの第3局と第6局の凄さもサースガードの反応でその類まれな才覚を理解する。

『薬を飲んだら偉大な才能が失われる』という言葉は常人には不可能なことを実現してしまえる才能と世間に合わせて日常を送る常識的意識は両立できぬと表しているようで突き刺さる。だからこそ凄いがだからこそ近寄りがたいという。
フィッシャーの人物像を描きながら凡人の想像を超える才能を持つ者の生きづらさを突きつけた素晴らしき傑作。
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