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ピクニックのRのレビュー・感想・評価

ピクニック(1936年製作の映画)
4.6
す…すばらしい。たった40分しかない未完の映画で、ジャンルノワール監督による編集でもないらしいのだが、それでもなおすばらしい。正直、見る前は、女たちがキャアキャア騒いで平和にピクニックするだけの、古臭い映画なんだろうと思ってた。40分しかないのにもっと長く感じるタイプの映画なのでは、と。ところがどっこい、予想外のスピード感で、あまりにも唐突なエンディングに到達したとき、え! もう終わり⁈ もう40分経った⁈ えええええ!!! もっと見たい!!! という気持ちで心がいっぱいになった。たいして特別なことが起こるわけではないし、ドラマチックでもなんでもないのに、この面白さは何。序盤のストーリーはこの上なくシンプルそうに見せかけて、途中から急展開を見せる。パリから家族と一緒に田舎に遊びに来た若くてナイーブな女アンリエッタが、田舎のナンパな?兄ちゃんにうまいことだまされて、半ばレイプされ、まぁそれはそれで悪くないわね……いや、むしろ……良かった……かしら……みたいになってまう。って話で、まず、映像の美しさと申しますか、強度と申しますか、そういうものに釘付け。一見なんら変哲のない、田舎にての日常の一コマなのだが、溢れんばかりの瑞々しさ、生命の躍動感で、画面全体が輝いて見える。草むら、樹々、ブランコ、川、舟、おびただしい光、それらは、役者さんたちの純粋無垢で元気はつらつな様子と絶妙なハーモニーを作り出してて、心ウキウキしてくる。で、主人公一家よりぜんぜん大きな存在感の軟派なチンピラ二人組。彼らは、軟派なチンピラでありつつ現代人のややこしさみたいなのぜんぜんなく、全くもってかわいいもん。男同士腕組んで歩いたりするし。どんだけ仲良しやねん。彼らは後半かなり意外な動きをしてきます。で、おいおい、そっちのオヤジかよ、ってなんるやけど、いや、待てよ、この男、実はなかなかの色男ではないか? はじめはジャガイモみたいな奴だ!と思ってたが、ぶっきらぼうで強引なところが案外セクシー。遂に娘さんを……!のシーンの腰への手の回し方、唇の求め方、欲望の燃え上がるクールな視線……これぞリビドーと名づけるに値するエロティカ。そりゃ、体、許してまうわな。そしてその後のレイン。それはその後の彼らの運命を想像させると同時に、ひょっとして現代的な穢らわしい意味においてちょー遠回しな解釈ができたりする⁈ 考えすぎですかね! その後の展開はちょっと予想を超えてます。ひと昔前のMe, too的感覚からすると、そんなバガな!!!ってなるかもしれない。でも、ボクにはその気持ちがよくよく分かる。一時の情事が、心の中で勝手に盛り上がって、知らず知らず人生の悲哀を深めてしまうこと。あります。あります。それが深い深い後悔になるか、薄いけれど明確なノスタルジアになるか。それぞれ形は違うでしょうが、心から消えることはない。たいへんビターです。いやーそれにしても、主人公の両親の男を見る目のなさといったら、度という度を超越してるね。ひょっとしてアイツお金持ちみたいな設定だったりしてましたっけ?気持ち悪い印象しかないから覚えてすらない。ほんと、短い映画なのに、気づけばちゃんとのせられて、いつしかそれぞれ心の中にある苦い思い出を投影してしまっていることでしょう。そうさせてしまうのは、やっぱりルノワールのとらえた美の輝きであり、ジョルジュダルヌーの不思議な魅力なのではないかなーと思ったりした。また見たいかも!
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