滝和也

教授のおかしな妄想殺人の滝和也のレビュー・感想・評価

教授のおかしな妄想殺人(2015年製作の映画)
3.4
人は生きる意味を
持たねばならない。

いや…そんな事はない。
いや…そうじゃない…。

そんな事を頭で捏ねる
哲学や精神分析を皮肉る
アレンらしい作品…。

「教授のおかしな妄想殺人」

酷い邦題…見終わった瞬間の感想(笑)確かにコメディなんだろうけど…虚無的かつシニカルなブラックユーモアサスペンスなので原題通りの理性なき男でも良いだろうに…。

哲学の高名だが風変わりな教授エイブが大学に赴任してくる。いくつかの悲しい体験から生きる意味を見いだせなくなっていたエイブの影の部分に惹かれた生徒ジルは彼に近づいていく。ある日ジルとエイブは悪徳判事の所業をダイナーの隣の席から聞こえてくる話で知る。エイブは見ず知らずの女性を助け、判事を殺す事に生きがいを見出し、変わり始める…。

生きる意味を見失った男が殺人に生きる意味を見出し…と言う皮肉すぎるストーリーであり、そのラストの生への執着が余りに哀れで滑稽でブラックさ、シニカルさに拍車をかけるウディ・アレンらしさ全開な作品です。

哲学者である点もまた皮肉。哲学や精神分析に対して笑い飛ばすと言うか、人と言う物や現実はそんなもん、もしくはそんなもんでは測れないとも言いたげです。

またそれを軽いタッチかつ明るい美しい画面でさり気なく語るあたり…らしさですわ。音楽もジャズメインだし…。

ウディ・アレンは自らが道化として主演するのが定番でしたが、老いて分身として役者を登場させるわけですが、今作はホアキン・フェニックス。ジョーカーのプロトタイプでしょうか(笑)生きる意味を人生に問い、理性まで破壊してしまった役ですからね。いつもの侘びしい頭でっかちの中年役でありながら、モテると言う…ウディ・アレンそのものでもあります。演技は流石巧み。余りに巧みでおかしな話なのに、普通に受け容れられちゃうあたりが流石。

相手役はエマ・ストーン。連続主演でしたが、前作の方が魅力的です。今作は何か普通すぎる役でしたからね。若い子が大人の影に惹かれ…と言う。

たた…らしさがあり過ぎて…も果たして面白いかと言ったらそれは別。正直かなり平坦だし、小品という感じ。こじんまりいつもの形に収まっちゃった感があるんですよ。故にこの点かなと。嫌いではないんですけどね…。
滝和也

滝和也