よしや

ヴィクトリアのよしやのレビュー・感想・評価

ヴィクトリア(2015年製作の映画)
2.5
全編ワンカット、脚本は数ページのみで役者のアドリブ過多という創作意欲に満ちた作品。その分期待も高かったが結果は残念。

全編ワンカットと言えばオスカーを受賞した「バードマン」がパッと頭に浮かぶ。
あれはあくまでもワンカット風であってカットを高い技術力でワンカットのように繋ぎ合わせていた。
「トゥモローワールド」で開発された技術、planeITから引き継がれた撮影監督ルベツキの手腕である。

今回の「ヴィクトリア」はそれとは違い本当にワンカットで撮られている。
これは非常に難しく、さらにアドリブも多く市街地での撮影ということでかなりの難度である。まずはこうした技術は褒めないといけない。

ワンカット、つまり長回しとは場面に臨場感をもたらすのに相応しい演出である。カットが切れないことから観客の目は始終画面に釘付けになる。

しかし全編を通してそれをやられてしまうと観ているこちらが疲弊してしまうし、カットが切れないことは作品のスピード感を失わせてしまう。
僕たちが観る140分は登場人物が感じる140分と同じという演出は確かに良いのだが、それゆえ全体が間延びしてダラダラとしていると感じざるを得ない。

役者の自然な演技を引き出すためか、あまりきっちりと決め事のない脚本とワンカットの組み合わせは最悪だった。
ヴィクトリアが男たちと会い、ようやく何か不穏さを感じるまで40ー50分もかかり、そこまでの展開も目新しさは皆無。
その後のマフィアに巻き込まれる展開も全く面白さがない、むしろチープとしか言いようがない。
駐車場で予行演習するシーンはリアリティ演出なのか知らないが観ている側としては苦痛でしかなかった。とにかく展開が遅くフラストレーションがたまる。

登場人物設定も微妙。ヴィクトリアのカフェで明かされる申し訳程度のバックグラウンド設定や行きずりの男と犯罪ズブズブになり、数時間しか一緒にいない男と逃避する、あり得ない行動は納得いくものではなかった。
友達もいない勉強付けだった女の子は異国の地で1人でクラブで踊りに行ったり、行きずりの男たちに着いていったりするか?
友達がいない故に心を許した人にどこまでもついていく依存的な関係にしても犯罪加担は都合良すぎない?そもそもチンピラたちは他に仲間がいないのか?頼むか?ヴィクトリアに?犯罪?

出てくる4人の男もヴィクトリアの恋人役を含めてキャラ立ちはテンプレを抜け出せず、むやみに怒鳴りあったりしてイライラしかしなかった。
犯罪に慣れていない等身大な登場人物たちというリアリティを出したいのは分かるけれど、分かるけど確かに、でも強盗した後にクラブで遊んであれ?警察いるじゃん!ヤバみたいな所はもう観てるこっちがバカにされてるんじゃないかと思うレベルで酷かった。
マフィアのボスも脅してお金を強盗させたわりにアフターフォローは皆無で、いやお前の金じゃねえか、何で強盗させて後は自分たちで勝手にさせよってなるの?雑かっていうツッコミをせざるを得ない。

市街地を巡る銃撃戦の臨場感は素晴らしいかったけれど、何か「ヒート」で観たことあるなっていう感想、見せ方は楽しいけれどオリジナリティはない。
こういうシーンが多ければまだ楽しく観れたけど、屋内とかでダラダラするシーンも多く、いやこれ長回しの意味ある?という感想も。

カメラワークの工夫は突き離す所と寄る所の切り替え等見られたが、個人的な感想になるが、制約が多いのは分かるにしても「バードマン」の廊下のシーンように、え?これどうやったのみたいなカメラワークのワクワクは少なかった。

最初に英語とドイツ語のぎこちない会話などはあるものの、イーライ・ロス「ホステル」のような異国の不安はさほど感じれず、そういう不穏な空気感が活かされる所も後半は全くなく、異国設定はこのお話にもっと活かせなかったのだろうか?

銀行強盗のシーン、ホテルのフロントの駆け引きなどのディテールは見せずにいるのは構わないけど、目ぼしいカーアクションもないし、銃撃戦も逃げるだけだし、警察との駆け引きも赤ちゃん偽装だけでホテルに入ってからは何?お涙頂戴演出??盛り上がるポイントが少なすぎて退屈だった。

オープニングのシーンと犯罪終わりのシーンとでクラブで踊る様子が入り、変化を表す演出なのかなとは思うのだけど、クラブで踊る必要はあるの?逆に浅はかにしか見えなかった。

作っている側は楽しく、クリエイティヴにやれてるのだろうけれど、観客は完全に置いてきぼり、そういう映画です。
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