えんさん

セルのえんさんのレビュー・感想・評価

セル(2015年製作の映画)
1.5
ある日突然、携帯電話で話していた人々が凶暴化しはじめる。たまたまボストン空港にて、コミック作家のクレイは自身の作品がようやく売れたことを、別居中の妻シャロンと携帯電話で話し終えたところだった。携帯を使った人々によって破壊し尽くされる空港をようやく脱出したクレイは、自宅に戻るが、シャロンと愛する息子の消息を確かめるべく、残された人々とともにニューハンプシャーを目指そうとするのだが。。スティーヴン・キングが自ら脚本を担当して自作を映画化したホラー。監督は「パラノーマル・アクティビティ2」のトッド・ウィリアムズ。

ハリウッド作品によくあるワンアイディアモノではあるのですが、あのスリラー作家の重鎮であるスティーブン・キングが自らの原作を脚本化したということを聞くと、何だか作品も高級志向が高まったような気がします(笑)。「グリーン・マイル」や「ショーシャンクの空に」、「ミザリー」、「ミスト」など1980年代から2000年代にかけて、映画の世界でも彼の原作が多数映画化され、アカデミーにも選出・受賞されるような高品質な作品も続いたんですが、ここ数年は彼の名前をあまり聞かないような気がします。彼の作品の特徴というのは、静かな物語展開の中にも、人間のドロドロした根源的な部分を描かれている作品が多く、SF劇や、感動劇という表面的じゃないところに、何かジットリと心に重苦しく残すものがあるのが彼の作品の魅力だと思います。そんな彼が今回テーマにしたのが、携帯電話という、、今時のツールがもたらす恐怖というところなのですが。。

本作、予告編で描かれるような部分は抜群に面白いのですが、お話としては10数年前のような古臭さも感じるのです。まず設定でも、そもそもスマートフォン時代で会話をしている人って半数くらいで、あとはスクリーンをペコペコしている人が多いと思うんですが、凶暴化するのはあくまで音声で通話している人のみというのもいかんせん、、という感じがするのです。あと最初の盛り上がり部分である空港を出たところから、作品のテンポがなんか緩慢になるのです。この感じはなんだろう、、とよく考えると、クレイが自宅に戻ってから再びニューハンプシャーに向かうために家を出てから、凶暴化した人に襲われるシーンがほとんど出てこないので、そもそも本作を観るであろう客が期待しているスリリングさに欠けてしまうのです。それよりも、携帯世代・スマホ世代によって侵食される実世界の危惧みたいなテーマ(暗喩)にこだわりが強すぎて、ダラダラとしたドラマが続き、観ている方の期待がどんどん裏切られるのです。もちろん、ホラー的な要素は若干あるものの、そこも迫力に欠ける。。それにあのラストも、、、という出来になっています(笑)。

最初の飲み口は素晴らしいものの、中盤以降は炭酸が一気に抜け、生ぬるい不味いビールのような味わいが非常に残念です。この映画で素晴らしいのは、観させようと工夫させた予告編かもしれません。。