小波norisuke

リリーのすべての小波norisukeのレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
3.9
世界で初めて性別適合手術を受けた人物とその人物を支えた妻の葛藤と愛情を描く。1920年代のデンマークと、夫妻が移り住んだパリが舞台となっている。

まだトランスジェンダーについての理解が進んでいない時代に、本当の自分に目覚め、受け入れることは、どんなに恐ろしかったことだろう。自分らしくありたいという抑えられない欲求と、最愛の妻を苦しめてしまう辛さ。自分が壊れていくような思いを味わったのではないか。

そんな恐怖と苦しみに苛まれる人物の繊細な心の動きを、エディ・レッドメインが体現していて、胸が締めつけられた。

夫の変化に戸惑い、自分が夫を変えてしまったのではないかと自分を責める妻。本当の夫を受け入れることによって、夫を失うことになる。そんな夫のそばにいることは、やはりとても恐ろしかったのではないか。複雑な思いを抱えながらも、夫を理解し支える妻を演じたアリシア・ヴィキャンデルには、母性を感じた。

一番に互いを理解し、思いやる二人の愛情が、心に沁みた。偏見の強かった時代に、二人を理解した友人がいたことも、救われた気持ちになった。

先進国においてもLGBTについての理解は、まだ浸透したとはいえない。人間の長い歴史の中で、どれほど多くの人が傷ついてきたことだろう。偏見が消えるまで、どれほどの時間がかかるのか。この映画から、性別適合手術についても考えさせられた。性を転換するということは、たとえ医療技術が進んでも、やはりとても大きく自分の身体を変えてしまうことだ。「神の領域」に踏み込むことになると、畏れる気持ちも理解できてしまう。多くの国で保険が適用される日がやがて来るかもしれないが、まだまだ時間がかかるだろう。

構図や採光にこだわった映像がとても美しい。スカーフが羽ばたくラストが、すべての拘束から解放されたリリーの晴れやかな心をあらわしているようで、清々しく思えた。
小波norisuke

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