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リリーのすべての小のレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
4.1
世界で初めて性別適合手術を受けたリリー・エルベ(男性時の名前はアイナー・ベルナー)の実話を描いた伝記映画。しかし、この作品、自分的には、アイナーの妻・ゲルダの物語だ。

ある日、アイナーは、ゲルダの絵の女性モデル役を務めたことで自分の中の女性に目覚める。最愛の夫が女性になったら妻はどう思うのだろうか。

リリーとなった夫は、自分の中のアイナーを強く否定する。女性としてのアイデンティティが、自分の中の男性を許さない。リスクの大きい性別適合手術に躊躇なく踏み切るのもそのためだろう。

一方、ゲルダはリリーを何とかして、愛するアイナーに戻そうとするのだけれど、失敗に終わる。そして、リリーが性別適合手術を受けることを支持する。ゲルダは、アイナーとリリーという二つの性(人格)を持つ、ひとりの人間としてリリー(アイナー)を愛したように見える。

ゲルダの広く、深い愛に感動し、いい話だと思った。しかし、時間がたつと、ゲルダは二つの性(人格)を持つ、ひとりの人間として愛したわけではないのではないか、と思い始めた。愛していたのは、相変わらずアイナーだけだったのではないか、と。

とすれば、この映画の私的テーマは、現実が困難な状況にある場合、想像(妄想)力が救いになる、という過去見た映画でも感じたことかもしれない。

ゲルダは、リリーがどんなに否定しようとも、リリーの中にアイナーがいるのだと想像(妄想)することはできる。そして、それができるのであれば、リリーをアイナーとして愛し続けることができる。

姿カタチではなく、自分が想像(妄想)した、リリーの中のアイナーにすがって、愛する。これがゲルダによる、リリー(アイナー)の愛し方のような気がする。

とても苦しく、切ないゲルダ。それに対し、自分の欲望に向かって進んでいったリリー(アイナー)は幸せだと言えるかもしれない。

なお、想像(妄想)力が、現実の困難の救いになるという点で思い出すのが、次の2作品。

2016年2月に見た『ビューティー・インサイド』。男性の外見が寝て起きるたびに変幻自在に変わるけど、内面の人格は一貫している。だから、女性はある日の顔がイケメン男性でなかったとしても、イケメンであると強く想像(妄想)することで、現実の困難を解決できるかもしれない(もっとも、日ごと顔が変わるし、中身の恋愛対象の人格は変わらないので、「中身が好き!」と強く思い込むこともでき、その困難は比較的大きくないかもしれないが)。

2015年12月に見た『母と暮せば』。母は妄想によって亡くなった息子を出現させることで、現実の孤独から自らを救ったように思える。

と、また自分の妄想を書いてしまったけど、それはおいても、ウルっときてしまう、良い作品だったかと。初めはそれ程でも…と思っていたリリーがだんだん綺麗になっていくような気がして、演技も凄いなぁと。あと風景の映像も美しかった。
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