星ワタル

リリーのすべての星ワタルのレビュー・感想・評価

リリーのすべて(2015年製作の映画)
4.5
「リリーのすべて」

今から90年も前に、世界ではじめて性別適合手術を受けて「男から女に」なったデンマーク人と、それを支え続けた女性の実話。

トランスジェンダーという概念すらなかった当時、自分のなかで巻き起こる現象が一体何なのか分からず、主人公や周囲の人々はとまどい、苦しむ。

でも、リリーはだんだんと自分らしさを確立していく。
それは、ひとえにパートナーの支えがあったから。
だからこの物語は、愛を試された妻ゲルダの物語なんだと思う。

男性が恋愛対象の女性が、愛した男性が女性に変わるとき、それでもその人をまるごと受け入れ、支えられるか。(ややこしいけど)

自分が相手に求めるものが、ほとんど手に入らなくなる苦しさ。
でも、好きだからこそ、その人が苦しまないようになって欲しい。その人らしくいて欲しい。という気持ち。

自分に置き換えて考えたとき、その困難さに茫然となる。

全編ほぼ2人の役者だけが出突っ張りで作品を進めていくが、エディ・レッドメインの完全に役に入り込んだ綿密な役作りと、その演技を受けてまっすぐに感情を剥き出しにするアリシア・ビカンダーの熱演により、ぐいぐい画面に引き込まれ、感情移入していった。特にビカンダーは主演でもいいくらいの大きな、精神的にも難しい役を見事に演じ切っていて、演技賞も納得。

そして、絵画を意識した美しい撮影も見事。

「レミゼ」で有名になったトム・フーパー監督、また名作を生み出したなぁ。

本当に誰かを心から愛したとき、人は性別や性愛や固定観念や、自分の欲求すべてを越えられるのかもしれない。

だからこの物語は、究極のラブストーリーなのだ。
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