Ricola

十字路の夜のRicolaのレビュー・感想・評価

十字路の夜(1932年製作の映画)
3.6
ジャン・ルノワールによる、ノワール作品。
このときからすでにジャック・ベッケルは彼のアシスタントを務めていたそう。

サスペンス映画としては、正直ハラハラ感や痛快感を物足りなく感じたが、ルノワールらしい繊細で抽象的な描写が美しい作品だった。


ある夜殺人事件が起こり、外国人女性に容疑がかけられるが…。
主人公のミグレ刑事が、彼女以外にも目撃者や怪しい人物たちを尋問し、事件の真相を暴こうとする。

冒頭の死人を映したシーンと、オープニングクレジットは、いかにもサスペンスらしい緊迫感漂う音楽とともに暗闇の怪しいがなんだか洒落た映像が流れる。

単に殺人事件の真相を追うところだけを映すのではなく、この短い尺の中でも、その殺人事件の置かれた状況を間接的に表す演出が効いている。

例えば、新聞が売店で売られるシーンが何度かある。
そこでは人々の忙しない足元のショットから、店先の新聞の書かれた内容へと移行する。何人かは通り過ぎ、何人かは売店に向かい、新聞を買い求めているのがわかる。何気ない風景であっても、この殺人事件の、世間でのとらわれ方がわかるシーンである。

また、被疑者が尋問を受けている際の緊張感を強調するシーンがとても好きだった。
尋問されている中、部屋の奥のシンクで並々の水が入ったコップに蛇口から水滴がポツポツ落ちる様子を映すことで、張り詰めた緊張感が演出されていた。

細やかな描写と、生き生きとした人物像がルノワールらしい映画だった。
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