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光をくれた人のsacoのレビュー・感想・評価

光をくれた人(2016年製作の映画)
3.0
物語の冒頭、激しい波が押し寄せる寒々とした海に浮かぶ孤島、その佇まいがこれから起こる悲劇を暗示しているようだった。
戦争で心が深く傷つき、帰還してからも人との関わりを避けて孤島の灯台守に着任するトム。その寡黙で影のある誠実な男をマイケル・ファスベンダーが魅力的に演じている。妻となるイザベル(アリシア・ヴィキャンデル)も快活で美しい。
ロマンチックなラブストーリーを思わせながら、2度の流産の後、偶然目の前に流れ着いた他人の赤ん坊を自分たちの子にしてしまうところから物語は急激にミステリーの様相を呈する。。。

赤ん坊と一緒に流されてきた男の死体を隠したり、途中で本当の母親(レイチェル・ワイズ)が分かったり、トムの裏切り(と言ってもそれが真っ当な行動なんだけど)で全てが露見してしまい夫婦の間に深い溝ができたり....非常にドラマチックなのだけど、どうしてもどっぷり話に入り込む事が出来なかった。
閉鎖的な孤島で流産が続き、精神的にも理性を優先する事が出来なかった状況は分かるのだけど。。。
届け出ようと強くすすめるトムを強引に説き伏せて、死体まで遺棄させるのは普通は考えられない。それほどまでに目の前の赤ん坊を求めていた事も分かるのだけど。。
中盤に本当の母親が分かったあたりから、イザベルが単なる我儘にしか見えなくなる。結局、妻と本当の母親との板挟みになって思い悩んだトムの真っ当な行為によって、子供を手放すことになり、その時点でトムを恨んだ妻は虚偽の証言をしてトムを牢獄へと送ってしまう。
映画を見ている間、ずーーっとトムに同情してしまって、感動どころじゃなかった。

似たような境遇に置かれる子供と親の複雑な心情は『八日目の蝉』や『そして父になる』で傑作を見せられているので、今回の『光をくれた人』は、恋愛物としても子供の問題としても、表面的で掘り下げ方が足りないと感じた。
ただ、映像の美しさ、前半の手紙のやり取りはとても良かったと思う。

自分のエゴを貫く事と、自分を心の底から深く愛し続けてくれた夫を取り戻す事と、どちらを選択するのか、目を覚まし正気に戻る瞬間が見どころなのかもしれない。
物語の肝にもなる「一度赦すだけでいい」という言葉はレイチェル・ワイズにだけ通用すると思った。
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