smithmouse

パンターニ/海賊と呼ばれたサイクリストのsmithmouseのレビュー・感想・評価

3.1
昔ロードバイクを探してた時に胴長過ぎて「お前に売ってやるBianchは無ぇ!」と言われた自分はこの人と自転車レースで勝負したら地球一周分ハンデを貰っても勝てる気がしない(ー ー;)。

「耐える方法を私は知らない」

天才クライマー、パンターニのキャリアを家族、関係者へのインタビューと当時の映像、再現VTRで構築されたドキュメンタリー。
シンプルな作りで単調に思えるがこの映画のウリはミゲル・インデュラインやランス・アームストロングという絶対王者に挑む”海賊”の姿を当時の映像で見られる事。
冒頭のパンターニとそのすぐ後ろに迫るアームストロングの姿、それを見るだけで鳥肌が立つ‼︎
如何にレースの総合順位がパンターニより上でも対戦ステージに峠があれば簡単にレースを覆されてしまう、正にライバルにしてみれば”天才”かつ”天災”。
斜面をグングンとスピードアップして駆け上がっていく時、苦悶にも取れる険しい表情が無ければパンターニの軽やかな姿は平地とまるで変わって見えない。
坂を駆け上がるペダルストロークもまるで早送りを見てるんじゃないかと思える程の高スピード高ケイデンス。
ガリビエ峠やラルプデュエズでのアタックは最早人間業では無い( ゚д゚)‼︎
この人のいくところまるで出エジプト記のモーゼが割った海の様にファンの人波が割れていくのが印象的。

競技とビジネスがハイブリッドされたツールやジロという”システム”に馴染めない純粋な姿を見てると同じくイタリアのカルチョで絶滅危惧種の”ファンタジスタ”を連想してしまう。
彼の純粋さのもう一つの対極、この競技と切っても切り離せなくなった”ドーピング”。
本人には酷とも言えるこの映画の終わり方がこの問題の根深さを感じさせる。

ビジネスマンとしてのイメージが強く最後にはキャリアの全てがぶち壊しになったランスと比べると彼の悲劇性とカリスマ性は一層際立って見える。
坂道の孤独な王様の映画。
smithmouse

smithmouse