emily

ぼくらの家路のemilyのレビュー・感想・評価

ぼくらの家路(2014年製作の映画)
4.0
 母親と6歳の弟マヌエルと一緒に暮らしてる10歳のジャック。母親は子供たちを愛しているがまだ若く、男遊びが絶えない。ジャックは常にマヌエルの世話をしていて、ある日事件が起きたことから、マヌエルは友達の家に、ジャックは施設に預けられてしまう。なじめないジャックは夏の帰省を楽しみにしていた。しかし母親は迎えにいけないと電話をよこし、ジャックは一人家に帰るが母親の姿はなく・・

 常にジャックの息遣いが聞こえる。朝起きて、弟の食事を準備し、学校に向かう。母は母親である前に女である。子供たちを愛しているが、女としての道があって子供たちに愛を注ぐことができるのだろう。常に二人の生活である。母は夜遊びのために、平気で子供二人を地下鉄で自宅に帰らせるし、普段の食事はパンやシリアル、ろくな食事にありつけてない。それでも悲しい事に子供にとっては母親なのだ。世界で唯一の母親なのだ。走るジャック、焦るジャック、表情をその行動を淡々とカメラは切り取り、静かなる心情を繊細に描いていく。施設での生活、双眼鏡、子供目線で描かれながら、決してカメラは子供たちを味方する訳ではない。淡々と客観的に捉える少年二人の母を探す旅。後半から終盤にかけての短い時間、食べるものを調達し、寝床を見つけ、”生きる”事を痛感する。
それは二人では生きていけないこと。いくら兄が頑張っても、大人の力が必要であることを改めて知るのだろう。ジャックの緊迫する走りや息遣い、何気ないしぐさから見せる頼れる兄としての決断力や、わずかに変化していく表情、隙間隙間からこぼれる強さと弱さの絶妙な変化を、しっかり表情や動きにのせる見事な演技である。

 その3日間さまよい続け、誰も手を差し伸べてくれない、うわべの優しさなんてただの残酷な結果しか導かない事。愛では生きていけない事を知る。子供の成長は早い。ジャックがさまよい、考え、守ってきたもの、わずか数日で大人になる事を強いられてしまう刹那。母は変わらない。今必要な物は愛ではない、生きるために必要な寝床や食事、安全に守られる事である。戻りたくなかった場所、拒否していた場所。でもそこでしか守られない。今はそこにすがるしかないのだ。ジャックの安堵の表情は観客のそれとも繋がる。子供はいつか大人になる。しかし少しでも子供で居る時間を長く与えてあげたい。何も考えずのびのび生きてる時間を与えてあげたい。それは大人の役目である。自分たちがそうやって与えられてきたものを、子供たちに無償で与える義務がある。
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