ずどこんちょ

僕と世界の方程式のずどこんちょのレビュー・感想・評価

僕と世界の方程式(2014年製作の映画)
3.3
数学が抜群に得意でコミュニケーションや人の気持ちを理解するのは苦手。自閉症の少年ネイサンが困難を乗り越えながらイギリス選抜代表として国際数学オリンピックに挑みます。
同監督が以前製作したドキュメンタリーが元になっているらしいですが、フィクションです。

大好きだった父親が9歳のときに交通事故で目の前で亡くなってしまう体験を経たネイサンは、お母さんと二人暮らし。でも、お母さんとはうまく交流ができていません。
自宅にいてもまともに会話はできていませんし、数学が苦手な母親のことをまるで見下しているかのようです。
とにかく母ジュリーを演じたサリー・ホーキンスの戸惑う挙動がリアルで痛々しい限り。独特な感性を持つ息子に対して腫れ物を触るかのように接していますし、自閉症特有の異常なこだわりに触れて感情を損ねる息子に怯えているようにも見えます。
話しかける言葉を選び過ぎて距離感が感じられるし、ちょっと怒っただけでもフォローの謝罪が過剰で弱々しい。
どうしても私たちは自閉症児の母親といえば、その子の唯一の理解者であると勝手に思い込んでいますが、反抗期を迎えた息子を理解できない母親がいるように、自閉症の息子と上手く通じることができない母親もいるのです。
父の死からの数年間。二人きりでどれほど苦しみながら向き合ってきたことでしょう。数学を勉強してネイサンのことを少しでも理解しようと努力してきたようですが、それでもネイサンはまともに応えてくれません。

そんなネイサンが、とある出来事から方程式や理論では説明できない愛情という心の動きに動揺します。
ジュリーはネイサンが初めて見せた顔に正面から向き合い、彼の心の苦しみを抱きしめて受け止めるのです。
それはきっとジュリーが久しぶりに母親として向き合えた瞬間でした。
父の死から心を塞いでいたネイサンがこうして心境を吐露できるまで、とても時間がかかりました。長く続くトンネルでした。
しかし、母親としてネイサンに教えることができたジュリーの顔や言葉は、決してこれまでの戸惑いながら接していた彼女ではなかったのです。

台湾合宿でネイサンより強い自閉症の症状が出ていたあの青年のその後が心配です。
本作でネイサンはそれほど著しく疎外されている描写はなく、むしろ物静かで控え目なところが合宿の女の子たちには好感を持たれている様子が感じられるのですが、調和を壊す発言を放り込む彼はそうではないでしょう。
自閉症にも程度がありますが、彼ほどの強さなら確かに生き辛さがあるのかもしれない。
最後に見たのが得意の数学で本領発揮できずに自傷している姿だったので、せめて彼が報われる瞬間に立ち会いたかったものです。

それと原題、「X+Y」がめちゃくちゃオシャレ!!これで良かった!数式で作品の世界観表すのも粋だなぁと思いました。