EmiDebu

ヒメアノ〜ルのEmiDebuのレビュー・感想・評価

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)
3.5
古谷実先生の漫画が大好きで、それも稲中卓球部より後のシリアスとコミカルが入り混じる人間模様を描いてるものが好きでその最高傑作は個人的にヒメアノ〜ル。というか個人的に好きな漫画のかなり上位、もしくは1位かも。

古谷実先生の漫画のほとんどは冴えない男が美女と付き合って大体4巻くらいで結末を迎えるものだけど、このヒメアノ〜ルはその側面こそあるがメインで描かれるのは「たまたま人と違うということの絶望」だ。この漫画のラストシーンを初めて読んだ時のことは今でも忘れない。酷く精神的に抉られ、涙が出た。数日間はズーンと何か重いものを抱えているような気分になった。

映画はその、漫画では一番大事だったところにほとんど触れずただのサイコパスを描いたバイオレンス映画に落ち着いてしまっていたのが惜しい。決してつまらない訳ではないが、人と違うこと、ヤバい人間をエンターテイメントとして楽しむこの映画は原作で伝えたかった意図とまるで真逆になってしまっていた。

というのも、森田はずっと絶望の中を生きていたのだ。「普通の人」としての感情が欠如し、「普通の人」と別の捉え方で人生を過ごし、首を絞めることに快感を感じてしまう「普通の人」との差異を全6巻の間ずっと感じている。その全てが凝縮された最終話のラスト数ページ。このシーンに当時やられてしまって鈍器で頭を殴られたような気分になった。このシーンまで森田という人間の苦悩を分かったようで分かっていなかったと気付かされた。また途中、原作に出てくる芽が出ない漫画家が編集者と話してるシーンがこのラストの伏線になっている。
平凡な暮らしに不安を抱く岡田と、非凡な性癖に絶望する森田のコントラストも、映画より漫画の方が確実に映えていた。

いじめっ子がどうとか、見て見ぬふりしてしまっただとか、そんな安っぽい話じゃないんだよヒメアノ〜ルは。
俺は森田のように首を絞めて快楽を感じる人間じゃなかった。しかし、それは偶然そうじゃなかっただけで、マイノリティだが確実にそのような人間は存在する。しかし、そのような人達もそうなろうとしてそうなった訳じゃない。
個性はみんな違うものだが、たまたまこの社会において違法になってしまう個性を持ってしまって、社会や法はそうじゃない人たちのために形成されてゆき、まるで自分が世の中から省かれているような、そう錯覚しないのもたまたま俺がそのような個性を持って生まれてないからだ。

これはセクシャルマイノリティに通じる話かもしれないが森田の絶望はもっと計り知れないものだっただろう。

ジャニーズを持ってくるあたり、最初はナンセンスだと思った。だって原作の森田は魚顔と呼ばれるブサイクだし。しかし結果的にその差を埋めるくらい森田剛の怪演は良かった。なんの緊張感もない顔で人を殺す感じ。

しかしヒメアノ〜ルという作品をどうかこの映画だけで完結させて欲しくない。原作厨と呼ばれるかもしれないが、この映画が好きだと思ったなら原作漫画をオススメする。そして映画とは違うラストを読んでみてほしい。絶対後悔はさせない。
EmiDebu

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