凛太朗

ヒメアノ〜ルの凛太朗のレビュー・感想・評価

ヒメアノ〜ル(2016年製作の映画)
4.5
アメトーク録り忘れたなら仕方ないね!

はい。森田!ワレそんな演技できたんかい!怖いわ!入り込みすぎて実生活に支障をきたすレベルなんじゃないかと。

はい。原作は未読です。古谷実なんですね。『ヒミズ』はめちゃくちゃ好きだし、この人の漫画はちょっと読んでみないといけないかもしれない。
『ヒミズ』と言えば、園子温監督で映画化してますが、この映画は園子温の『冷たい熱帯魚』的な雰囲気がありますね。
ということで『冷たい熱帯魚』も映画版『ヒミズ』も好きな私は、この映画にガンガン引き込まれました。

タイトルが出てくるまでの長い前半部分は、清掃会社に勤める岡田進(濱田岳)と上司の安藤勇次(ムロツヨシ)とカフェの店員阿部ユカ(佐津川愛美)の3人を中心に描いた、コミカルで不器用な三角関係が中心で、主演の森田剛が演じる森田は少しだけの登場。少しだけしか登場してないのに、何やら既に不穏な空気を漂わせていらっしゃる。

タイトルが出てからの後半は、前半とは打って変わって、森田を中心に倫理観を無視した不条理極まりない殺伐とした血みどろの殺戮ショーが描かれる。

森田剛がホントにヤベー奴化してます。紛れもなくサイコパス。背後から何回も刺したり、死体が転がってる傍で飯食ったり(他人の家)、躊躇なくヘッドショットかましたり。ホント凄い。やってることも凄いけど、なんかもう内面からヤバイもんが出てきてるというか、内面が読めないから逆に怖いというか。
濱田岳やムロツヨシも森田剛に喰われてるってわけじゃないので、この二人もやっぱ巧いです。

映画版では、森田は生まれつきのサイコパスではなく、きっかけがあってそうなってしまったように描かれてますよね。そりゃそうなっても仕方ないとまでは言わないけど、わからないでもないみたいな。
じゃあ何を描きたかったのか?
いじめダメ絶対ってことなのか、いじめを傍観しているだけの輩もいじめに加担してるのと一緒ってことなのか、やってしまってから後悔したのでは遅いということなのか、そもそもそんなことになってしまう日本の社会が悪いってことなのか、兎に角警察は無能ですよってことなのか。
まぁ明らかに警察は無能に描かれてますけどね。怪しい奴に背中を見せ、拳銃を奪われ、ストーカー被害には取り合わず、危険人物がいると現場にはパトカーたったの1台で急行。アホちゃうかと。
兎に角、色んな解釈を観客に委ねて来ますが、犬を避け、「お母さん麦茶持ってきて!」からの回想シーンには物凄いカタルシスがありました。
あれは森田にとって救いなのか、それとも最悪な悪夢でしかないのか。

「どうせ死刑だろ。」

精神疾患が認められた場合どうなるのか?死ぬことすら認められなかった場合、死ぬことを望んでいた人間にとって、生かされることは死ぬことと同義なのではないか?
精神疾患だからといって、罪のない人間を何人も凌辱し殺めた人間に人権を与えて呑気に夢を見させていいのか?
ヒメアノ〜ルとは、ヒメトカゲという体長10㎝しかない小型爬虫類のことで、転じて強者の餌になる弱者を意味するらしいですが、でもなんでトカゲ?トカゲの尻尾と同じで自切して強者に捕食されるのを回避するってことなら、森田はサイコパス化したきっかけによって何でもできる神、或いは悪魔となって捕食者となったとも捉えらるし、比喩的表現なら、森田のような凶悪犯罪でも結局トカゲの尻尾切りで、社会はもっと深くて黒い闇がありますよ。と捉えられないこともない。

「深淵を覗き込む時、深淵もまたこちらを覗いているのだ。」 by ニーチェ

なんせ、鑑賞後無限になにかを考えてしまう映画であった。
凛太朗

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