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ミューン 月の守護者の伝説のbackpackerのレビュー・感想・評価

3.0
「夜の闇の中で静かな夢を見て、明るい太陽の中で笑いに包まれる」

東京都写真美術館で2021年に開催された『世界の秀作アニメーション 2021 秋編』のスニークプレビューにて鑑賞。
2022年に行われた春編にて、フランス語版が上映されたようですが、スニークプレビューでは吹替版でした。
また、当時は邦題すら決まっておらず、上映後のアンケートにて数案の候補から投票可能でしたが、どれに入れたのかは記憶にありません……笑

本作は、近年日本でも人気が高まりつつある外国アニメ(ディズニーを除く)、中でも昔から芸術的アニメを数多く生み出してきたフランスのアニメ映画です。
個人的に、フランスのアニメ映画で連想されるのは、『ロングウェイ・ノース』『ベルヴィル・ランデブー』『ジュゼップ 戦場の画家』『イリュージョニスト』など。
いずれも高い芸術性とストーリー性を有する独特な作品で、記憶に残っている作品です。また、どの作品も、絵のタッチがバンドデシネ風だったこともあり、とても馴染みやすかったです。
斯様なフランスアニメーションイメージを有していた私なため、コテコテの3DCGで埋め尽くされた本作が、まさかフランス映画とは、当初は思いもよりませんでした。(上記の通り、設定があまりにも良くある普遍的な鉄板テーマであったことも、「まさかフランス映画だったなんて!」と驚く一因ではありました。)
思い返すと、終盤に色鉛筆風手書きタッチのアニメーションが挿入されていましたが、どこかバンドデシネ的な雰囲気でしたね。


ストーリーはFilmarks記載のあらすじの通りですが、行きて帰りし物語系の英雄成長譚です。旅の仲間全員の成長に、大いなる敵ネクロスの改心等、ハッピーエンドの大団円でまとまっております。
ただ、世界の仕組みがもたらす、決まった人生しか与えられない苦しみがベースにある、差別と諦念の物語でもあり、安直な幸せ物語では決してありません。

この世界は、住む世界が明確に分けられ、世界が変わると命を失う危険性すらあるという、意外と自由や拡張性の無い世界です。
そこでは、〈太陽と月の守護者〉なる役職の者(使徒、神使、神官のような役割です)がおり、それぞれの世界を守るために、その一生の全てを捧げて、太陽と月を"物理的に"支えています(この構図からは、どこか"神の子の犠牲"のようなキリスト教的価値観を感じさせますね)。
この世界は決して綺麗な側面だけではなく、世界を保つために犠牲を必要とし、その積み重ねに新しい人身御供が選ばれる一幕を描いたものってところは、まさしく生贄であり、神への供物とも取れます。
"アブラハムの宗教"が信仰する絶対の神は「お前の息子生贄にしろ」と平気で言う方ですし、言われた親父も言われた通りに捧げようとしますから、"神に捧げる尊い犠牲"の物語って事で考えると、実に宗教的な作品だったような気もしますね。

そういえば、本作には邪悪の象徴として、蛇が登場します。
蛇というモチーフは、西欧では背信・裏切りや悪の象徴とされることが多い印象ですが、これもやはりキリスト教的価値観及び宗教美術の影響なんですかね。
それにしたって、毎回こんな扱いなんだよなぁ、蛇って。どうにかならんかねぇ。


個人的には、丸く収まる大団円エンドは、あまり捻りもなくありふれていたため、先読み出来すぎてつまらんなぁと思って見ていました。
また、世界観設定がもたらす抑圧的空気感もあって、そこまで好きにもなれません。
とはいえ、単純な子ども向け映画のような内容でもなく、色々と考えさせられましたので、多くの方に見ていただきたいとは思います。
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