糸くず

仁義なき戦い 頂上作戦の糸くずのレビュー・感想・評価

仁義なき戦い 頂上作戦(1974年製作の映画)
4.0
やくざの抗争それ自体だけでなく、やくざと社会との力関係の変化まで描き出そうとした意欲的な問題作。

今までのシリーズにおいて、抗争はあくまで「やくざ」という集団の内側の出来事でしかなかった。もちろん暴力団が社会からはみ出した者たちの受け皿として機能してきたことは描かれてきたが、はみ出し者の集団である以上、社会の裏側の出来事ではあった。しかし、抗争は次第に平穏な暮らしを得つつあった市民の生活を脅かすものとなっていく。そこから、市民の暴力団追放運動、マスコミのバッシング、そして警察による「頂上作戦」が展開していく。表向きの事業によって資金を得ていた暴力団はもはや社会の外の存在ではいられず、世論を受け止めて行動する必要に迫られていった。社会のはみ出し者として生きることを選んだはずの彼らは、結局のところ社会に取り込まれることを余儀なくされたのである。

単に一個人あるい一組織の出来事を描くのではなく、こうした暴力団と社会との関係の変化のダイナミズムに着目して抗争を描いた視野の広さ。それこそがこの映画の特異な魅力であるが、テーマが複雑かつ多岐に渡っているため、非常に難解な映画でもある。また、やくざが身動きを取れなくなる過程を描いた映画である以上、アクションも少なめで、おまけに広能が中盤で逮捕されて物語から退場してしまう。黒沢年男、夏八木勲、小倉一郎など東映やくざ映画にほとんど出演していない役者の活躍が素晴らしいが(特に銃口を切り落としたライフルを振り回して暴れる黒沢年男が最高にかっこいい)、どうしても地味な印象はぬぐえない。

それでも、優れたエンタメであると同時に優れた社会批評でもあるこの映画は、今でも鋭く世の中をえぐる強さがある。いや、様々な社会矛盾が噴出している今だからこそ、社会と真摯に向き合ったこの映画の意義の大きさが納得できるのではないか。

出来れば、『代理戦争』と連続で鑑賞することをオススメする。そうすると、人間関係も頭に入りやすい。
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