ひでやん

ウイークエンドのひでやんのレビュー・感想・評価

ウイークエンド(1967年製作の映画)
4.2
田舎の実家へ行き、親を殺して遺産を手に入れるという筋書きがあるとして、その「骨」にどのような肉付けをするかは監督によって千差万別だ。

例えばヒッチコックならスリリングなサスペンスに仕上げるだろう。デヴィッド・リンチなら殺人が妄想なのか現実なのか判然としない世界を描くだろう。

ゴダールはごちゃ混ぜスープを作り、具材が溶けるまで煮込み、「骨」さえ残さなかった。

それは日常風景から始まった。部屋の会話に殺意を孕ませ、外の暴力を俯瞰で映した後、うんざりするような渋滞に切り替わる。

どこまでも続く車の列を長回しで一台一台映し出し、横転する車や血まみれの死体があちこちに転がる。

男女は淡彩の日常から原色の非日常へと巻き込まれていき、その異様な光景は週末を終末へと変えていく。

衝突事故による階級論争で、原色を爆発させたポップアートの極みを見せたゴダールは、殺伐とした雰囲気と、混沌とした狂気に観客を散々引きずり込んだ後、唖然とする台詞を放り込む。

「なんて映画だ、病人ばかり」
「あなたが悪い。出演するから」

そして、架空の人物だと言ってコスプレ女に火をつける。

面白い話があるから聞いてくれと言う奴に耳を傾け、長話を真剣に聞いた後「全部嘘でした」と言われる気分。これに似た感覚をどこかで味わった事がある…そうだ、ホドロフスキーだ。

狂気の世界を一瞬でおとぎ話に変え、今度はドキュメンタリーのように人種や階級、文明について長々と語り出す。

日常風景から非日常の世界を歩き、原色のアートで彩った後、最後にはすべて虚構としてしまう。

たかだか映画、されど映画。

やりたい放題のゴダールに振り回された気分になった。
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