カルダモン

父を探してのカルダモンのレビュー・感想・評価

父を探して(2013年製作の映画)
4.8
大好きなお父さんが遠くに行ってしまった心細さが、寂しくも温かい気持ちにさせてくれる。時折聞こえてくる笛の音色。色彩のような音。少年の心がサイレントに響いてくるようだった。

子供の持つ生命力が色となり線となり画面を走り抜けて、無垢な目で受けとめた世界がまるごと映し出されている。アニメーションのタッチは一定ではなく、あらゆる手法(必要となれば実写をも!)を自在に操り、コラージュして、世界を取り込んでいく。さまざまな動植物が暮らすジャングルは明るくカラフルなクレヨンやパステルで。少年のフィルターを通した世界がどのように映っているのか、色と形と音で表現される。絵の具のベッタリ感、透明感、ツギハギのテクスチャー。描線が踊り、図形が模様を描き、CGエフェクトが入り乱れる。サイケデリック空間を通り抜け、ふっとなにも無い空白になる。映画を見ている最中は鮮やかなビジョンの数々に圧倒されっぱなしだった。重要なのは描き込まないことによる広がりの豊かさ。そこにはあくまでも鑑賞者の想像力を信じてブーストさせてくれる心地よさがある。
音楽も絵と同じく縦横無尽に、無国籍だけれど民族性を感じる温かな音楽。セリフなしでも言葉以上に少年の目から見た世界が語られて、私も少年になった。

父を探しながら成長していく過程、その背中をもう一人の小さな自分が見守る、子供の頃の自分が未来の自分を追いかけている、という少し不思議な視点の物語。父を探す旅であるとともに、内面に向けて父に触れる記憶の旅のようにも思える。年老いた未来の自分には中年の自分も青年の自分も少年の自分も、あらゆる時間がマトリョーシカのように存在してる。自分で自分を見つめるということの愛おしさについてこの映画はとても意識しているような気がした。

綿花を収穫するシーンが眩しくて涙出る。柔らかいワタに埋もれて、たくさんのトラックで運ばれて。運ばれていく先のことなど考えもしない柔らかい時間。
やがて影を落とす綿花畑を分断する道路。大きな翼を広げる色鮮やかな鳥。紡績のリズミカルなサウンド。糸から布へ。バザールの賑わい。木が描かれたお家のドアが素敵。自転車のパーツを組み替えて一人演奏の不思議楽器。奏でられるのは記憶にある父親が吹いてくれたメロディ。開発されていく騒がしい街の中でも万華鏡をのぞけば柔らかい光の記憶が見える。食卓のお父さんとお母さん。パンにシチューを付け合いっこ。
追いかけても、探しても、届かない。
でも、一番そばにある記憶が寄り添ってくれる。