OASIS

父を探してのOASISのネタバレレビュー・内容・結末

父を探して(2013年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

家族を残し、出稼ぎの為に都会へと旅立って行った父親を探して冒険を繰り広げる少年の話。
ブラジルのインディペンデントアニメ監督、アレ・アブレウによる長編アニメーション作品。

ミクロからマクロへ。
少年が覗き込む万華鏡の様に、世界は目紛るしく変化する。
シンプルなデザインはどこまでも二次元的だが、前へ後ろへそして縦横無尽に画面狭しと躍動するキャラクターやストーリーは立体的。
シンプルであるがゆえにギミックは映え、無機質で画一的な世界の薄気味悪さが引き立っていた。

いつもと変わらず元気いっぱいに遊んでいた少年は、ある日、父が母と何やら神妙な面持ちで話をしている場面を目撃し、父が仕事を探して街に出ると知らされる。
寂しさに耐えられなくなった少年は、身の丈ほどのトランクケースを担ぎながら、行方も知らぬ父を探して旅に出る。
まずはオープニングの美しさ。
顕微鏡で覗いたかのような、幾重にも重なり合った微粒子がズームアウトによって一つの物を形作る。
「アントマン」が見た量子の世界のような繊細さと壮大さを感じる映像に引き込まれた。
それと同時に、父親が居なくなる瞬間の霧のように消えて行く描写が何とも寂しい。

好奇心旺盛な少年が遊び回る世界は広大でカラフル。
画面の手前に近寄ってはバケツを蹴り、奥に遠のいては生い茂る草木を跳ね回る。
画面の奥行きを感じられる構図が面白くて、平面的でへのへのもへじのようなデザインのキャラクターではあるが、動きは小動物的に愛らしくて見ているだけで和む。
パタパタと駆ける足音、バケツを蹴り上げガンガンと叩く音、そして父親の吹く笛の音色。
リアルな生活音がキャラクターや背景を彩り、身近に感じられた。

少年が旅立った先では、綿畑でおっかない支配人にこき使われる人々や、同じ格好で同じ仕事を無味乾燥にこなす都会人などの冒険とは名ばかりの光景が拡がっていた。
まるで奴隷制度の残る土地が拡大・発展によって一大国家を築きあげていくような過程を見ている感覚で、ブラジルという国の繁栄の裏にある貧困をそのままアニメーションの世界で描いたと思われる。
その絵柄の可愛らしさからすると似つかわしくないほど突き付けられる問題は現実的で、映画の一部では森林伐採や大気汚染等の問題についての実際の映像が流される所もあるが、不思議とそれは当たり前のようた感覚で処理され、寧ろポップなタッチで機会的に描くからこそ狂気度が増しているように感じた。
実際の映像が挿入される事でかえって説教臭くなってしまっているかなと感じる部分もある。

少年が出会ったカラフルな衣装の明るい音楽隊と、黒でガチガチに統一された政府の暗い音楽隊との対照的なバトルも意味深くて面白かった。
音が色のついた音玉になって浮かび上がり不死鳥の形を描くという煌びやかな美しさと、それを覆い尽くさんとするほどドス黒いカラスの戦いは、音玉やその集合体、それを操る人々が何を表しているのかと考えたりすると暗い部分しか見えなくなってしまうが。
ファンタジーの世界での戦いと思いたいが、そうは思わせたくないような妙に現実的な部分であったり世相の反映といった要素を多分に含んでいる。

子が父の背中を追いかけ、そして子もまた父になって行く。
そんな円を描くような構造は、変わり行く世界の中で変わらない親と子の関係といったテーマをより鮮明に浮かび上がらせる。
ミクロからマクロへ、そしてまたミクロへと。
千々に乱れる鮮やかな色彩に寂寞の思いが滲む傑作であった。
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