たなかひろき

父を探してのたなかひろきのネタバレレビュー・内容・結末

父を探して(2013年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

哀しかった。幸福な原初の記憶にとらわれた人間は、そこへ還っていくことでしか幸福になれないのか。仮に父がいなくなった後の自分の人生を彼が幸福にできたとしたら、あの音楽、虹色の色彩にあったのだろうけど、それも黒い鳥に破壊されてしまった。
心を打つのは打つんだけど、視野が狭いというか、悲観的に、「閉じてしまっている」気はする。
主人公が旅の中で出会った「他者」が、結局ぜんぶ自分自身だったのが問題だったんじゃないだろうか。
本当の「他者」と関わり、家庭を持ったりできたなら、自分の幸福を手に入れられたんじゃないか。
まあ、そうしたくてもできなかったんだろうけど。

一定のパターンが繰り返されるところが多くて、それは資本主義社会のシステムを表している。人間もそれを動かす歯車として描かれている。
システムに抑圧されている個人が息を吹き返すのが、虹色の音楽を奏でている時なのだろう。

たぶん、ブラジルにおいては過酷な労働や国家による弾圧が本物の苦しみなのだろうけど、現代日本に暮らす身としては、数世代前のテーマを見ているように感じた。
システムと個人の軋轢については、昔から村上春樹が書いているし。
自然破壊を批判するようなカットも、創り手は本当に問題だと思ってるんだろうけど、安直だなと。

ただ、特に後半、言語化できない良いところがあって、それはアニメーションならではの良さなので、良かった。
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