まく

父を探してのまくのレビュー・感想・評価

父を探して(2013年製作の映画)
4.1
子供の落書きのような明るく朗らかなタッチで、
目を背けたくなるような世界の真実を描き出す。
たった80分で、人類そして人生の本質を不必要な感傷は一切なく淡々としかし切実に描き出している。
ミクロの深層から浮き上がるような形で幕を開け、そして巨大なシステムと化した人間社会のミクロへと迫ってゆく。そのシステムによって「個」が奪われたのか、それとも「個」は人間が生き物として元来内包している本懐ではないのか。答えは何も示されない。
虚無に耽溺してしまってもおかしくないテーマでありながらとても優しい気持ちになれる不思議はその絵柄故だけではない。歯車の一つとして生きる者にも、その営みの中に幸福が確かにある。
素晴らしいのはブラジルのスラム出身ラッパーによる美しい主題歌。
子供、世界、世界、子供、子供、世界、と囁くように淡々と繰り返される言葉がぐるぐる廻り、映画本編と見事にシンクロ、融和してゆく快感。
「子供」「世界」この2つの言葉を並べられているだけで何故かもう泣きそうになる。

ただ一点、終盤「戦場でワルツを」と同じ手法で世界のリアルを叩きつけてくるわけだけども、
20年前にこれをしていたら手放しで大称賛ものだけれど今の時代少し今更感が拭えず逆にチープな感じがするような。

とはいえこんなアニメーション映画観たことないし、胸をえぐるような内容、寓意性、ハッピーエンドともアンハッピーエンドとも何とも言えない余韻を残す締めくくり方、とても心に残るいい映画だった。
まく

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