さわだにわか

いろはにほへとのさわだにわかのレビュー・感想・評価

いろはにほへと(1960年製作の映画)
4.5
「この映画に登場する人物・団体はすべて架空の…」的なお断りが映画とかドラマの頭に付くようになったのはいつ頃からなのか知りませんが1960年のこの映画にはもう付いてくる。その使い方がまったく気が利いていて、「…すべて架空のものです。つまり、この映画は作り話です」の冒頭テロップを受けて映画のラストシーン、佐田啓二らと組んで投資詐欺(とは正確には違うのが勘所なのですが)を働いていたテキ屋の三井弘次があの胡散臭い調子で俺はウン千万儲けたんだ!嘘じゃねぇ本当の話だぜ!などと観客に向かって言う。
金融市場の不確かさや空虚さを皮肉った面白い仕掛け。橋本忍面目躍如の戦後もので、変種の任侠映画のような趣きもあるが、この皮肉は今も有効だろう。

誠実なクズ男を演じさせたら右に出る者のいない(褒めているのかそれは)佐田啓二が貧困にあえぐ民衆の救世主から腐れ詐欺師へと転落していく投資成金を熱演、いろは歌を陰気に口ずさむ飲んだくれの刑事・伊藤雄之助がそれに応じる。社会の最下層に置かれた野良犬どもの暗闘は地味にスリリングだが映画はそこから本当に悪いのは誰なんだ的な方向にシフトするので一筋縄ではいかない。佐田の無念と伊藤の怒りは国会の実景ショットに繋がれるのであった。

傑作だと思う。

追記:殿山泰司の似合わなすぎる背広姿は笑いどころ。
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