欲望
欲望に生きる愚かな人間
愛、金、見栄、地位
エゴむき出しの人間模様を登場人物それぞれの視点から描き、欲望がいかに人間を翻弄するのかを丁寧かつサスペンスフルに表現する
夜中に発生した1件の事故をきっかけに、北イタリアの上流、中流、下流という、それぞれの経済的階層に属する人々の真実の姿を浮き彫りにさせ、現代社会の酷薄な現状や人間の本音を次々に目の当たりにさせられる
金持ちの息子を無罪にする証拠の値段と、被害者の家族に降りた保険金の額の差
この金額の差は、人間の価値の差なのか
社会的には、人間の価値とはその人の収入や地位によって決まってしまう部分が大きいかもしれない。
ただ、人間同士が決める人の価値とは、感情や思い入れによって多様に変化する
かけがえのない愛する人の命を救えるなら、多額の金銭を失ってでも助けようとするかもしれないが、それがニュースで流れる事件のように、見ず知らずの人の命だったら、はたして助けようと思えるのか
つまり、人間の価値というのは、捉えようのない不確実なものであり、ある種の無意味なものだとこの作品は示してくる
劇中では、登場人物それぞれが悩みを持ち現実に満足出来ず、常に何かを求め続けている。そして、各人物が持つ周囲の人間に対する価値も自身の欲望によって大きく異なっている
結局、貧富の差はあっても、そういった欲望に生きる人間の本質的な部分は何も変わることは無く、上流階級にいる人間たちも、ひとたび地位を脅かされるだけで、人に対する価値というのは簡単に変わってしまうということ
その古めかしくも力強い社会観や人間観が息づいた「人間の値打ち」の表現描写は、それが根源的であるが故に、見る側の心を深い地点で揺さぶる力を内在している
ここまで"人間"というものを感じさせられた作品は久しぶりでした
人間の果てしない欲望の中に、格差という社会的問題を内包することで、純粋に人間の"内"を見せつけてくるとても良質な作品です