小一郎

ブレンダンとケルズの秘密の小一郎のレビュー・感想・評価

ブレンダンとケルズの秘密(2009年製作の映画)
4.2
評判良さげだったので鑑賞。絵本のような味わい深い絵と万華鏡のような動きがきれい。しかしその内容は、とても高い精神性をテーマとしている気がする。

バイキングの襲来に備えて高い壁を完成させることに執着する主人公ブレンダンの叔父さんの修道院長。一方、そんな壁はバイキングに必ず破られる、重要なのは「ケルズの書」を完成させることだと考える写本絵師のエイダン。ブレンダンはエイダンの影響を受け、森の妖精アシュリンの力を借り、「ケルズの書」づくりを手伝う。

ところで「ケルズの書」とは何なのか。こちらのサイトを読むとよくわかる。
(http://www.thecinema.jp/blog/2017/07/-2014-2009-mrfox.php)
なかでも参考になったのが次の文章。

<アシュリンちゃんとは何者なのか?ケルト民族は妖精を信じていますので、妖精か妖怪変化のたぐいでしょうか?森はキリスト教ではなく妖精や異教の領域。そこでキリスト教の修道士ブレンダン君とケルトの妖精アシュリンちゃんが仲良しになるというところが、とてもアイルランド的なのです。ケルト+キリスト教=アイルランドなのです。「ケルト系キリスト教」も当然そういうことですし、今作劇中のキーアイテム「ケルズの書」も、ケルト伝統装飾で彩られたキリスト教福音書ですから。>

つまり「ケルズの書」とはアイルランドの魂であり、アイデンティティーの象徴なのだ。アイルランドが国宝としているのは、貴重だからということは二の次で、自らの一部のようなものだからだろう。

物質的な意味での生命を第一に考える人にとっては、バイキングに攻め込まれることが不可避という状況は絶望でしかない。だから不安を和らげるため、無駄な抵抗と薄々わかっていても、いやわかっているからこそ、壁を作ることにこだわる。

一方で、民族のアイデンティティーを守り、後世につなげていくことが最も大切なことであると考える人にとっては、「ケルズの書」を完成させ、永遠に伝えていくことが生きる意味となり、希望となる。

生きる意味や希望を失った民族は滅びるしかない。一方、「ケルトの書」つまり芸術を創造し、文化を伝えていくことができれば、民族が滅びることはない。

とはいえ個人の存在が大きくなり「自分が死んだら意味ないじゃん」という意見の方が納得されそうな現代において、壁を築くのが誤りで、バイキングを撃退してくれるわけでない「ケルズの書」を完成させることが何故正しいのか、特に子どもは疑問に思いそうな気がする。まずは娘に説明してみようかしら。

●物語(50%×4.0):2.00
・大人も考えさせられる深みのある物語。

●演技、演出(30%×4.5):1.35
・万華鏡のような動きがきれい。

●映像、音、音楽(20%×4.0):0.80
・絵本的な絵が好き。