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バリー・シール/アメリカをはめた男のnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.2
 アメリカ上空数万kmの空の旅、副操縦士がウトウトと眠りにつく中、男は突如操縦桿を握る。飛行機はその巨体を少し揺らした後、男はハニカミながら「タービュランス(乱気流)に巻き込まれた」と応える。明らかに仕事に満足行っていない男は、大手航空会社トランス・ワールド航空(TWA)のエリート・パイロットであるバリー・シール(トム・クルーズ)と言う。航空機の操縦テクニックはもちろんのこと、自信溢れる風貌は人目を誘い、ルイジアナ州バトンルージュにある邸宅には愛する妻ルーシー(サラ・ライト・オルセン)が彼の帰りを待っている。全米各地を転々とする花形職業のパイロットだが、彼の能力を高く評価した男でCIAのモンティ・シェイファー(ドーナル・グリーソン)がヘッド・ハンティングを仕掛ける。シェイファーがバリー・シールを口説き落とすために用意したのは、時速500kmで飛べる最新鋭の小型飛行機だった。とにかくこのバリー・シールと言う男、金よりも地位よりも名誉よりも何よりも「男のロマン」を第一に選ぶ。トム様とダグ・リーマンが初めてタッグを組んだ『オール・ユー・ニード・イズ・キル』から3年、『ミッション:インポッシブル』シリーズのイーサン・ハントや『ジャック・リーチャー』シリーズのジャック・リーチャーよりも、ひたすらファニーでユニークな男の姿は『トップガン』の頃よりも数倍頼もしい操縦士として今作では全ての飛行機の操縦をこなす。

 図らずも昨日の『アトミック・ブロンド』同様にロナルド・レーガンの当時のニュース映像で幕を開ける物語は、バリー・シールという実在の人物の78年から86年までの濃厚な人生にフォーカスする。シェイファーの悪魔の手招きとその圧倒的な操縦テクニックにより、CIA、麻薬王、ホワイトハウスまでを顧客とした男の人生は、そのまま麻薬戦争と対共産主義戦争の時代の申し子となり、当時のアメリカのハチャメチャなモラルに乗って、一時代を築く。その数奇な半生は、スティーヴン・スピルバーグの2002年作『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』やマーティン・スコシージの2013年作『ウルフ・オブ・ウォールストリート』と同工異曲の様相を呈す。飛行機の安全運転のように一度高度高く上昇し、安定している間は良いが、愛する妻ルーシーの弟JB(ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)が家に顔を出したあたりから、徐々に雲行きが怪しくなる。ダグ・リーマンのタッチは右肩上がりの成功を躁状態のように描きながら、その後の転落の人生も過不足なくしっかりと描き切る。巨万の富を得たバリー・シールはその時、あくまで「男のロマン」に徹した無邪気な傍観者でしかない。その意味で「アメリカをはめた男」というサブ・タイトルは言い得て妙な含蓄を含む。『シティ・オブ・ゴッド』や『マイ・ボディガード』などで撮影を担当したセザール・シャローンのカメラは原色を際立たせ、全体的に明るめな色調が素晴らしい。ヴィスタ・サイズのカメラで切り取られるトム様の御姿は、左頬にニキビ跡が僅かに見えるものの、やはりトップ・スターにしか出せない圧倒的な輝きを放っている。
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