茶一郎

バリー・シール/アメリカをはめた男の茶一郎のレビュー・感想・評価

4.0
 本当にアメリカは目茶苦茶な国だな、と思います。
 トム・クルーズが扮する主人公バリー・シール、民間機パイロットでありながらその天才的なパイロットのスキルを買われCIAからスカウト。極秘の偵察任務のため南米を行き来しながら、後の麻薬王パブロ・エスコバル率いる麻薬カルテル「メジデン・カルテル」の麻薬密輸に関与、おまけにニカラグア親米反政府組織への武器密輸までこなすという。こんな目茶苦茶な実話に基づく胡散臭すぎるトンデモ話でも、アメリカという国家なら、そしてそのアメリカを代表するトップスター=トム・クルーズなら納得してしまうというのも困ったものです。
 今作『バリー・シール』は、数多の犯罪に手を染め成り上がっていく天才パイロットの成り上がり物語をブラックなコメディタッチで描いた作品でありました。

 タイトルの『〜アメリカをはめた男』なんて大嘘で、これは「〜アメリカにはめられた男」のお話。特に『トップガン』を筆頭とする出演初期作において体育会系のマッチョ信仰を代表するアメリカ男を演じていたトム・クルーズがその屈託のないニヤケ笑顔のまま、アメリカにどんどんとハメられ、受動的に成り上がってしまうという何とも自虐的なトムの役選びに笑ってしまいます。
 同じく「アメリカにはめられた男」というと、自身の青春をベトナム戦争に捧げた主人公を演じた『7月4日に生まれて』という作品がありましたが、そのシリアスな語り口とは真逆の軽いタッチで主人公がハメられていく過程を映すというのが今作『バリー・シール』の特徴です。

 監督は初期に『スウィンガーズ』というコメディを手がけているダグ・ライマン(リーマンの表記よりライマンの方が原語に近い)。思えば今作と同じくトム・クルーズと組んだ前作『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の前半部分は、余裕ブッこいていたトムがあれよあれよという間に戦場に送られ殺されまくるという受動的でブラックなスラップ・スティックコメディでしたが、そのブラック度を低く設定すると今作のテイストになるということでしょう。
 またダグ・ライマン監督の前々作『フェア・ゲーム』は、イラクが核を保有していることをでっち上げたアメリカ国家に対抗したCIAを、まさかのアメリカ国家が追い詰めていくという(こちらも)目茶苦茶な実話に基づくトンデモ話だったことを思い出すと、今作『バリー・シール』もアメリカ国家に利用されハメられ、捨てられていく過程は語り口の重さは違えど、同じことを描いていたと確認できます。

 国内法どころか、国際法も侵害しているにも関わらず、全く悪いように見えないトムの(良い意味での)幼さ・純粋無垢さが作品にとってかなりプラスに働いている印象。何より一流スター出演作品とは思えないダークなラスト、『American Made』=『アメリカ製』、『アメリカに作られた男』という原題が一層、沁みます。
 そして、今作の末からアメリカ、CIAの矛先は「イラク」へと向かい……ダグ・ライマン監督の『フェア・ゲーム』へと続くのです。念のためもう一度言いますが、本当にアメリカは目茶苦茶な国だな、と思います。
茶一郎

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