松原慶太

アイヒマン・ショー/歴史を写した男たちの松原慶太のレビュー・感想・評価

3.1
1961年のアイヒマン裁判を題材とした作品。

ナチの戦犯アイヒマンは、戦後南米に潜伏しているところを発見され、イスラエルまで連行される。アウシュビッツの首謀者とされる彼が、どのように裁かれるか全世界が注目していた。

同じ裁判を描いた作品として「ハンナ・アーレント」がある。哲学者であるハンナ・アーレントが、雑誌「ニューヨーカー」に依頼され、裁判を傍聴した顛末を映画化したものだ。

アーレントは、裁判のなかで、小役人のように無表情で「私はただ命令に従っただけ」と答えるアイヒマンに、無思想性、没個性、陳腐さを見てとる。彼女はこれを「悪の凡庸さ」と呼んだ。アイヒマンの人間性、および現代的な悪の本質にせまる鋭い考察だ。

いっぽうこの「アイヒマン・ショー」では、アイヒマン自身にはあまり触れず、この裁判を映像化する側、TVプロデューサーのミルトン・フルックマンとドキュメンタリー監督のレオ・フルヴィッツを中心に描いている。その意味では、やや深みに欠けるというか、食い足りない印象を受けた。

ただ、映画のラストでミルトン・フルックマン(本人)が出てきて語る短いスピーチには感銘を受けた。
松原慶太

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