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アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカーの小のレビュー・感想・評価

4.8
上映後、特別展示のポスターを撮影していく女性が多数いた。その気持ち、わかります。物凄く魅力的な女性だもの。ファッションに興味のないオジサンも虜になっちゃうよ。これはもう、ファッションの映画ではない。人生の達人がその極意を披露してくれる、ありがたい映画だ。

アイリス・アブフェルという、94歳の女性のドキュメンタリー。この人を一言で説明することは難しい。1950年代からインテリアデザイナーとして活躍。仕事も兼ねて夫と世界を旅するうちにコレクターとなり、織物を衣服に、工芸品を宝飾品に変え、その独創的なスタイルがニューヨーク社交シーンで称賛される。2005年、メトロポリタン美術館で自身のファッションコレクション展示会が開催されると、驚異的な動員数を記録した。今でもなお、テレビショッピングや百貨店の企画で引っ張りだこ。多くのデザイナーからリスペクトされる存在。

この人の魅力は何なのか。まず何といっても、そのファッション。トレードマークのどデカい丸メガネはもちろん、どデカい工芸品、宝飾品を身にまとうど派手で、奇抜なスタイル。普通の人だったら、変になりかねないところなのに、不思議とカッコよくサマになっている。

ファッションが大好きで、とても楽しんでいる。そのことが伝わってきて、見ているこっちも楽しくなる。自分ですらファッションを楽しんでみようかしら、と思ってしまう。

ユーモアと好奇心の二つを大事にしていると語るように、経験と教養のにじむ話がとにかく面白く、周りにいて楽しくなる。お互い気遣い、とても仲良しな夫婦関係は誰もが微笑ましく、羨ましいと思うに違いない。

濃密な人生経験に裏打ちされた言葉がとても素敵。このためにパンフレットを買ってしまったくらい。全ていいのだけれど、その中で、気になったものをいくつか。

「毎日無難なことを繰り返すくらいなら、いっそ何もしなきゃいい」

「私は、大きくて大胆で派手な物が好き。死者も目覚めるインパクトよ」

「センスがなくても、幸せならいい。皆好きな服を着るべきだもの」

「子供は望まなかった。全てを手に入れるのは無理だとわかっていたから、キャリアと旅行を選んだ」

「積極的に世の中に出たいわ。それが私の生き方なの。歳をとり体が弱ると、後ろ向きになる人も多い。でも重病でないなら、自分を駆り立てなきゃ。外に出て調子の悪さを忘れるの」

「自分を美人だと思ったことはない。一度もない。私みたいな女は、努力して魅力を身につけるの。色々な事を学び個性を磨くのよ」

パンフレットにはなかったけど、「人間は所有できない。天から借りているだけ」というような趣旨の言葉も好き。

間違いなく、人生を全うする生き方。自分の好きなことを見極め、好きなようにやるけど、そのために努力し、欲張らない、他人を批判しない。ビデオが出たら、買っちゃうかも。
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