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ラ・ラ・ランドのkatsuのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
4.5
《消えゆくアート…それでも若者は夢を見る》

ある人は今作をこう評価した…
「前回同じような気持ちになったのは6歳の時に『スター・ウォーズ』を観た時だった。」

タイトルである『La La Land』は、アメリカ・ロサンゼルスのことを意味する言葉で、ハリウッドを中心に夢を追う人々が集う場所であることから、「夢見がちな現実離れした人」といった少し否定的な意味合いで使われることもある。

そんな夢追い人の街LAで出会った女優志望のミアとジャズピアニストのセバスチャンの恋模様を描いたのが本作だ。

”2016年No.1映画”と評価する人も多く、英国アカデミー賞やゴールデングローブ賞など、各映画賞をことごとく受賞!
第89回アカデミー賞では史上最多タイとなる14ノミネート(13部門)を果たし、監督賞・主演女優賞・撮影賞・美術賞・作曲賞・主題歌賞(City of Stars)の6部門を受賞!

以下に本作の感想、キャスト、制作背景をぎっしり詰め込みました!

《感想》

◆理想と現実のはざまで…

映画の舞台は夢追い人が集まる街LA《La La Land》。
夢を追いかける二人の若者が、度々訪れる偶然の出会いを経て恋に落ちます。

主人公のミア(エマストーン)は、女優になるという夢を抱きながらスタジオの中にあるカフェで働いています。
時折カフェを訪れる有名女優に憧れの眼差しを送り、店の目の前にある映画『カサブランカ』が撮影されたセットを嬉々として眺める日々を送る彼女ですが、オーディションでは落ちてばかり。

もう一人の主人公セブ(ライアンゴズリング)は、マイルスデイヴィスやセロニアスモンク、ジョンコルトレーンに憧れるジャズピアニスト。
ホーギーカーマイケルが座っていたという椅子を宝物のように大事にする、ジャズに人生を捧げているような青年です。
自宅のピアノでセロニアス・モンクの1966年のアルバムに収録されている『Japanese Folk Song(荒城の月)』(滝廉太郎の『荒城の月』を元にした曲)のレコードをかけながら同じフレーズを繰り返し練習する彼の夢は、いつか自分のジャズクラブを持つこと。

夢に向かって邁進する二人ですが、その舞台となるLAも時代の波には逆らえず、作中ではアートが失われゆく街の様子が描かれます。

名画を上映していた街の映画館は潰れ、ジャズクラブは姿を消し、求められるのは大衆に受けるものばかり。

『雨に唄えば』や『理由なき反抗』、『サンセット大通り』など、各所にハリウッド黄金時代の名画へのオマージュがちりばめられた本作ですが、あくまでも舞台はアートが街から失われつつある現代のLAです。

この時代にアートを志す若者たちは、自分の目指す夢と現実の間で折り合いをつけることを余儀なくされます。

セブもそんな人間のうちの一人。

ある日、学生時代の友人キース(ジョンレジェンド)率いるバンド「ザ・メッセンジャーズ」のキーボードに誘われたセブは、本来自分が志してきた音楽とは異なる楽曲を演奏し、生活の糧を得るようになります。

ミアと出会ったばかりの頃、周りの反応など知ったこっちゃないと口癖のように語っていたセブが、安定した収入のために「大衆受けする」音楽を演奏するようになる。
そんな彼の姿に自らを重ねる人も多いのではないでしょうか。

その道のプロとして食っていくためにある種の妥協が必要とされるというのはよく分かります。

プールサイドで80年代ポップスを気だるげに演奏していた頃のセブに私は強く惹かれますが。

現実と理想の狭間で揺れ動くアーティストの葛藤にリアリティを持たせているのは、ザ・メッセンジャーズが演奏する楽曲『START A FIRE』の完成度の高さです。
キースを演じるグラミー歌手ジョン・レジェンドが制作したこの曲は映画のサントラにも入っていますが、ヒットチャートにランクインするようなノリの良い曲で、一聴しただけでは「この曲、全然いいじゃん」と思ってしまいます。

しかし、映画序盤にジャズクラブ「Lighthouse Cafe」でセブは、ジャズが嫌いだと言うミアに向かって「ジャズとは演奏者それぞれがその曲を自分なりに解釈し、自己主張をぶつけあう音楽だ。だから演奏するたびに新しいものが生まれる」と語っており、それを踏まえて聴くと、『START A FIRE』においてセブが奏でるキーボードの音は、ボーカルを中心としたメロディラインに従属する単なる引き立て役にしかなっていないようにも感じられます。

キースは、ジャズの名プレイヤーの名を挙げながら「彼らは革新者だった」と言い、「音楽は常に新しいものを取り入れて進化しなければならない」と語りますが、この発言がまたもっともらしくて説得力があります。

ライブのシーンでノリノリな観客の中、ミアだけが困惑の表情を浮かべ、「これは本当にあなたがやりたい音楽なの?」とセブに問いかけます。
一方のセブは初めて人々に受け入れられた感覚に喜びを覚え、自分の店を開く資金稼ぎのために始めたはずのバンド活動にいつしかどっぷりとはまっていきます。

理想を追求することと、広く受け入れられること。

この二つを両立することの難しさが、セブの葛藤を通じて本作の中では示されています。

◆デイミアン・チャゼルがやってのけたこと

本作にとっての「理想と現実」とは、黄金時代のハリウッドミュージカルの復活(理想)と興行的な成功(現実)ということになるでしょうか。

理想と現実の間で葛藤しているのは他ならぬデイミアン・チャゼル監督自身なのかもしれません。

往年の名画のオマージュに溢れる本作からは監督の映画への深い愛が伝わってきます。

渋滞する車の列を横から映し出すカメラワーク、クラクションが飛び交うオープニングは、ジャン=リュック・ゴダールの『ウィークエンド』から。
何の説明もなく延々と続く渋滞の列とやかましいクラクションが「一体いつまで続くんだ?」と観客を不安に陥れる(個人的にはそれがまた笑えるのですが)『ウィークエンド』とは異なり、『ラ・ラ・ランド』では一人の女性が車内で歌い出すのを合図に色とりどりの衣装を身にまとったキャストが一斉にダンスを踊り出します。

テクニカラー、大人数でのダンス。
黄金時代のハリウッドミュージカルを想起させる圧倒的なオープニングから『巴里のアメリカ人』を再現するエンディングまで、本作は徹頭徹尾映画への愛を「これでもか」というくらいにさらけ出します。

ポップな主題歌やカラフルな衣装はジャック・ドゥミの『ロシュフォールの恋人たち』、ミアとセブの恋模様は同じくジャック・ドゥミの『シェルブールの雨傘』、二人がマジックアワーのLAの街並みを背景にタップダンスを踊る場面は『雨に唄えば』を思い起こさせます。

しかしこの映画は、単に過去の名作を模倣・反復するだけではなく、現代の観客に「うける」作りにもなっています。

前作『セッション』で示されたように、デイミアン・チャゼル監督はテンポの良さと動きのあるカメラワーク、畳みかけるような展開が特徴的です。

上映中、観客を全く飽きさせることのない演出力、構成力は、彼が現代の映画業界で一足飛びに成功できた要因の一つと言えるでしょう。

そして今回はミュージカルというジャンルによって彼の映像作家としての能力がさらに引き出されています。

いきなり登場人物が歌い出したり踊りだしたりすること自体がそもそも「リアル」ではないミュージカルは、元来「リアリズム」のハードルが低いジャンルであり、その分観客は映画を観ている間、ある程度突飛なものでも受け入れられる心理状態にあります。

『理由なき反抗』の舞台であるグリフィス天文台で二人が宇宙にまで舞い上がってダンスをする場面や、終盤の夢と現実が入り乱れるシーンに見られるように、ミュージカルというジャンルが持つ映像表現の自由度を拡張するという特性が、チャゼルという作家の個性に非常にマッチしていたように感じられました。

過去の名作ミュージカルを本作が進化させたとまでは言えませんが、少なくとも現代の観客向けの仕様にアップデートすることに成功したとは言えるのではないでしょうか。

もちろん、女優志望のミアを演じるエマ・ストーン(オーディションでまともに演じさせてもらいないときの困惑の表情は素晴らしい)と軽く弾ける程度だったピアノを3か月の猛特訓によって上達させ、見事(手元のアップさえも)代役なしで演じ切ったライアン・ゴズリングの演技が本作の完成度をさらに高めていることは言うまでもありません。

そして、ミュージカル映画やジャズが「死にかけている」この時代に、無謀ともいえるプロジェクトに果敢に挑戦し、見事成功を収めた1980年代生まれの若き才能に脱帽です。

《監督・キャスト》

◆監督:デイミアン・チャゼル

本作の監督・脚本はデイミアン・チャゼル。
1985年生まれと若い監督ですが、第2作目となる映画『セッション』が低予算ながら非常に高く評価され、アカデミー賞ではJ・Kシモンズの助演男優賞をはじめ3部門を受賞、一躍映画界のホープとなりました。

チャゼルが本作の構想を思いついたのはハーバード大学在学中。
大学の卒業制作では、先行的作品とも言えるボストンのジャズミュージシャンを描いた短編映画『Guy and Madeline on a Park Bench』を制作しました。

『Guy and・・』では一部分しか描けなかった彼の構想をついに実現したのが本作『ララランド』となります。

第89回アカデミー賞では史上最年少で監督賞を受賞しました。

◆エマ・ストーン(ミア役)

ロサンゼルスで女優を目指す主人公ミアを演じるのは『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』、『アメイジング・スパイダーマン』のエマ・ストーン。

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』では、アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされました。

本作では第89回アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされ、見事受賞しました。

2014年には『キャバレー』でブロードウェイデビューを果たすなど、ミュージカルへの出演経験もある彼女ですが、本作では素晴らしい歌のみならず華麗なダンスも披露しています。

ちなみに、本作の振り付けには、人気ドラマ「glee/グリー」(2009~2015)や映画『世界にひとつのプレイブック』(2012)を手掛けた振り付け師、マンディ・ムーアが起用されています。

gleek(gleeの大ファン)は必見の映画ってことですね!

◆ライアン・ゴズリング(セバスチャン役)

もう一人の主人公、ジャズピアニストのセバスチャンを演じるのは、『きみに読む物語』、『ドライブ』、『ラブ・アゲイン』のライアン・ゴズリング。

ピアノはほぼ素人ながら、撮影前に3か月間の猛特訓を敢行。
映画では見事な腕前を披露しています。
実際にライアンが演奏している音が劇中で使われています。

”YOU CAN WRITE YOUR OWN RULES”という言葉もいいですね!

ちなみに、デイミアン・チャゼルは当初、主人公カップルにエマ・ワトソンと『セッション』で主人公を演じたマイルズ・テラーを考えていたそうですが、諸事情により実現せず(契約交渉が上手くいかなかったなど様々な憶測が流れています)。
今となってはエマ・ストーン&ライアン・ゴズリングで良かったと誰もが思っているのではないでしょうか。

◆J・K・シモンズ(ビル役)

セバスチャンがピアノを演奏するレストランの経営者ビル役には、J・K・シモンズ。

チャゼル監督の前作『セッション』では暴力的な鬼音楽教師を演じアカデミー賞助演男優賞を受賞しました。

『セッション』の印象が強いので、いきなりブチギレるんじゃないかとソワソワします。

◆ジョン・レジェンド(キース役)

セバスチャンが加入するバンド“ザ・メッセンジャーズ”のミュージシャン、キース役をグラミー賞に10度輝いたジョン・レジェンドが演じています。

映画の中でメッセンジャーズが演奏する曲「スタート・ア・ファイア」の楽曲制作も務めました。
撮影のためにギターも練習したとのこと!


この他、フィン・ウィットロックやローズマリー・デウィット、日本生まれで日系イギリス人女優のソノヤ・ミズノなどが出演!


成功するには強く願うこと…
扉を叩き続けろ!
オーディションに落ちても、貧しくても、舞台に立てば力が湧いてくる…
また朝が来れば、昨日とは違うまったく新しい一日が始まるのだから……

””Another Day of Sun””
katsu

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