曇天

ラ・ラ・ランドの曇天のレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
4.8
なんとも、感想を書くのが難しい映画がやってきた。何せ自分は昔の古い映画にもジャズにもミュージカルにも詳しくない。情報部分以外はごくごく古典的なロマンチックドラマ、それ以上を語るとネタバレになってしまう…まだ公開2日目。まあそんな御託よりとりあえず褒めたい、いい映画でしたよ!

そんな最近の映画しか観ていない自分でもわかるくらいに、最近ではハリウッド黄金期を思い出させるような映画が多く打ち出されているように思う。
60年代以降はほぼ見なくなる大規模セット、鮮やかな色彩コーディネートが特徴的な『グランドブダペストホテル』。50年代の人気作家パトリシア・ハイスミスの映像化『キャロル』『ギリシアに消えた嘘』。アメリカ的ノスタルジーを漂わせる『ブルックリン』。西部劇の再燃も黄金期的。ウェス・アンダーソン、トッド・ヘインズ、ジャンピエール・ジュネなど、映画監督で通してみるとより50年代感が見て取れるかもしれない。そして冷戦期のハリウッドネタをごった煮している『ヘイル、シーザー!』『トランボ』。時代描写だけなら『キャプテン・アメリカ ファーストアベンジャー』、『グレース・オブ・モナコ』などもある。

どれも黄金期的な華やかさを蘇らせようという試みの中に現代的ブラッシュアップを織り込んで成功してきている。自分としては今回の『ラ・ラ・ランド』もそのような黄金期復興映画の一つに上手く収まったと認識しています。でもそれだけじゃないのが本作、視点がかなり同時代的・今風だと思いました。

本作のミュージカル部分は長々と長回しして切れ目がない。映画の特性を無視して、舞台上のミュージカルのように演者の演技力によって凄みを出そうとしている。ライアン・ゴズリングのピアノも吹替えなしという気合の入れよう。ストーリー部分とミュージカル部分の境目は曖昧で、『ダンサーインザダーク』や『シカゴ』のような妄想設定の処理もされていない。この辺は昔のミュージカル映画を踏襲してるように見えた。それでいてミュージカルに参加する人数は少ない。オープニングとエピローグとパーティのシーン以外は個人的な心情や関係性の発展を表現するパートだからか踊るのは主に主役の二人。特に夢を語る時の二人はいつも孤独に見えた。

オマージュや古い映画のタイトルを出されても全然わからんかったのだが、バイトしてるカフェで『セッション』の曲が流れてたのだけわかりました。「春」パートで多分"When I Wake"という曲。

まあ、表面的には切なく儚さ漂うメロドラマですが、とある人種の方、昔夢を追っていた人かもしくはそんな人と付き合った経験のある人なら身に覚えのあるシーン、または身に詰まされるシーン満載で観ていられなくなります。ラスト間際の曲は"Audition (The Fools Who Dream)"はもう殺しにかかってきます。あるいは成仏させようとしているのかもしれません。そういった夢追い人の一人よがりで周囲に対してストイックな部分は『セッション』でも描かれたんで、その方面が得意な監督なんだなと再認識。個人的に思い出したのは全然映画じゃなくアニメ版プラネテスとか、ラーメンズ公演の「器用で不器用な男と不器用で器用な男の話」とか、早稲田大学劇団てあとろの「無自覚フレグランス」とか。才能と現実の狭間におけるゆらぎの描写ってのはやはり若い世代ならではの視点なのかもしれません。
エピローグだってクザヴィエ・ドランの『MOMMY』や『バタフライ・エフェクト』を彷彿とさせるし、アカデミー会員のような詳しい人はオマージュだと言うかもしれないが演出自体は意外と今風なんだぜ。今の若者はこれは自分たちの映画だと胸を張っていいのです。

追記。途中セブが参加した新時代のジャズバンドの曲が悔しいくらいかっこいい曲だったのが良かったなー。あとこれに昔風の邦題を付けるならなんだろうと考えてました。「陶酔の都」?
あと公開前ずっとyoutubeでDancing with the Starsの"Someone in the Crowd"パフォーマンス見てたので本編でほとんどダンスが映らなかったのがかなり残念でした。あんなにかっこいいのに!
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