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ラ・ラ・ランドのSのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
4.5
本当に見てよかった。私はこの映画が好きだし、映画というコンテンツが心から好きだと思えます。

これは"夢"の話だ。この言葉に完全同意。

鑑賞後に溢れる高揚感と幸福感。どこか切なくてでも楽しい。そして涙が止まらなくて席から離れられない。そんな経験を映画館で久しぶりにしました。ストーリーは至ってありきたり。特別なひねりも特になければ難しい展開でもない。でもそれがわかりやすくて、入り込みやすくてとっても良かった。

ミュージカル映画を期待して行くとコケる、というのはちょっと納得。踊って歌ってはそこまで多くはありません。普通のドラマ映画にミュージカルシーンが加わった、という感じです。でも普通にミュージカル映画が好きな人、ミュージカル映画を普段あまり見ない人にはとても入りやすく見やすい映画かも。

あとは何と言っても過去作品とのオマージュ。過去の名作へのリスペクトがひしひしと感じられました。個人的にはパリのシーンでの、ミッドナイトインパリのオマージュ。あの映画の二人の選択とセブとミアを重ねて涙が止まらなくなった。



------- この先ネタバレありです ----------





ロシュフォールの恋人たちを彷彿させるような通行人によるカラフルでハッピーなオープニング!開始2分でこれは面白いわって確信した。そしてこの歌の歌詞……二回目の視聴者を刺しにきている。ララランドの全貌を把握し終わった後に、オープニングの歌詞を見るともうダメ。この時点で二回目は泣いた。

ラストの2人の選択は意見が分かれるかもしれません。2人は結局は別々の道を歩むことになった。けれど、それでも自分の人生を選択する上で、重要な時間を共に過ごし、支え合って、背中を押し合うことで互いにそれを成し遂げた。なくてはならなかった人物であることには変わりがない。

ラストの、言葉は交わさずともアイコンタクトで2人笑い合い離れるのは、あの一曲と数秒間で互いの心境をちゃんと理解して区切りがついた合図にも思えました。ある意味で最高のハッピーエンドだとわたしは強く思います。

ミアがいなければ、セブは自分の好きなジャズではなく、別の音楽の道へと進んでしまっていたかもしれない。描いていた夢とは違う人生を歩んでいたかもしれない。

セブがいなければ、ミアはオーディションをうけずに、女優の道を諦めてしまっていたかもしれない。描いていた夢とは違う人生を歩んでいたかもしれない。

夢を叶えるために、お互いがお互いになくてはならない存在だった。必要不可欠な存在だった。

二人の関係性の結果をのみを見てしまうと、恋人としては別れて別々の人生を歩んでいるわけなので、悲しいのかもしれません。でもこれは「恋」の映画ではなく、「夢」の映画。昔の自分が夢に見ていた道を今歩けているのは、あの時恋をしていたセブが、ミアがいたから。そう考えたらやっぱり大ハッピーエンドでしかない……。

きっと二人がもっともっと歳をとって、お互いの人生の中で転機となった瞬間はいつ?って聞いたら、この期間を思い出してしまうようなそんな関係。最終的に愛した人は違うかもしれないけど、「自分の人生になくてはならなかった人」として記憶にずっと残る。これってめちゃくちゃ素敵じゃないですか。

とくに何がと言葉にするのが難しいのですが、「私は映画が好きだ。こういう気持ちにさせてくれる映画を求めている」と再確認させてくれた。

ラスト10分を本当に永遠と見ていたい。あの10分を「あったかもしれない過去」と取るか、「あの時思い描いていた将来」と取るか、そしてその両方だと見るのかは見る人それぞれ違うと思います。もしかしたら「今でも思い描いている未来」なのかもしれないな、セブに恋人がいるかどうかはわからないし。いずれにせよ全てに当てはまるようでいて当てはまらず、しかし確実にどこかに存在し得る映像。

お互い別の場所で別の人生を生きているけれど、最後にあの一曲を弾いている、聴いている2人は少なからず一緒にいた時間を思い出して重なっていたと思う。

ただの二人の昔の恋の回想ではなく、たくさんの「かもしれない」を詰め込んだあの時間は、恋人として幸せだった二人が思い描いていた一つの未来なんだとも思う。だからこそあのもしもの世界が綺麗に見えた。ここもきっと見る人によってどう感じるかは違うと思うけれど、私にはそう見えました。

ミアとセブの二人の”別れ”も良かったです。

オーディションを受けたあと、二人でする別れ話。「ずっと愛してる」「俺も愛してる」。とても別れ話で泣きながら話す内容ではない。好きだからこそ別れた。好きだけど、夢のために別れるしかなかった。今後の夢のためにお互いは必要がなかった、だから別れた。たとえ好きでも。ミアがパリに行ったって、付き合い続ける選択なんていくらでも出来たはず。だけど二人はそれを選ばなかった。相手の夢を支えて、応援して、背中を押すのが自分の役目。役目を終えた二人が選んだ未来は、恋人としての別れ。

恋人として別れた二人は、5年間で夢を叶え再開する。何気なくミアたちが入ったバーには、いつの日か二人で言い争いながら案を出し合ったいつかの出店を夢見るセブのあの看板。

セブは諦めていたミアを無理やり引き戻して受けさせたオーディションに合格し、ミアが一気に大女優へと上り詰めたことをきっとテレビやラジオや街中の広告でずっと見ていて知っているけれど、ミアはセブが夢を叶えられたのかどうかは知らないんですよね。いろいろあって別の方向へと進んで行こうとしていたセブを説得したけれど、出店したかどうかはわからないままミアとへ離れた。だからミアはラストの瞬間にやっとセブが夢を叶えたことを知れた。

懐かしい曲で、大好きなジャズで、大好きになったジャズで、あの時一緒に聴いた曲をまた共有して思い出して。セブの夢を叶えた店に、夢を叶えたミアが来店しその演奏を聴く。それはまるでお互いに叶えた夢の報告会のような感じ。だからその曲が終わって、夢のような時間を終えて二人が笑顔でアイコンタクトを取った瞬間、恋人としてはとっくに別れているけれど、「夢を共にし支えてきた、夢の協力者としての別れ」も迎えられたんだなぁって感じがしました。

あの10分に詰まったミアとセブの全てが、このララランドの全てでした。あの10分間を作り上げるための前半2時間。その2時間のおかげで後半10分が活きてくる。本当に、この映画を見れて良かった!
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