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ラ・ラ・ランドのkouのレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
4.5
《戻れない過去》
デミアン・チャゼル監督は今作で現代のミュージカルの名作を作り上げた。美しく、それでいて豪華。楽しくて、しかし切なく、多くの感情を揺さぶられる作品だった。「セッション」のデミアン・チャゼル監督。主演はライアン・ゴズリングとエマ・ストーン。アカデミー賞での6部門を取得したことでも話題になったことは記憶に新しい。間違いなく今年を代表する一本になる、とても素晴らしい作品だった。

古典的なミュージカルの名作を作るという意思のもと、数々の名作へのオマージュも表しつつ、現代のミュージカルの名作を作り上げたという感じ。豪華さ、色彩、衣装、音楽に至るまで意気込みが感じられ、誰もが楽しめる内容になっていると思う。誰もが絶賛するところなのはオープニングシーン。渋滞の高速道路で踊りだす姿は圧巻で素晴らしかった。このオープニングからぐっと心を持っていかれる。

僕はミュージカル映画における感情の起伏、登場人物の気持ちの描かれている部分はミュージカルの部分にあると思っている。もちろんミュージカルでない部分でも感情は多く描かれるが、誰かを特別な人を探したり、誰かを好きになったり、恋に落ちたり、その喜怒哀楽は間違いなくミュージカル部分で大きく盛り上がる。今作ももちろん、過去のミュージカルからその部分は受け継いでいる。僕らはそれを見て一緒に喜怒哀楽を楽しむのだ。

例えば恋に落ちるまでの2人のダンス。気持ちがわかり合って、展望台で浮かびながら踊るシーン。それらはとてもロマンチックで素敵なシーンだ。彼らの気持ちを十分に語る。そして、季節は流れ、二人の関係はだんだん上手く行かなくなっていく。それは歌とともに哀愁を持って語られる。それらを修飾するのはカラフルで美しい、色彩。そしてロケーションだ。どのシーンも美しく、古いミュージカル映画を思い起こさせる。

また、「夢」というのが今作の重要な部分だ。二人がそれぞれの夢を追い求めながらも、うまくいかない。そんな中、二人は「自分を見てくれる誰か」を見つけるのだ。恋愛の素晴らしいところはまさにそこで、「私はあなたを見ている」「自分は誰かの中に存在している」という事が人を支える糧になる。世間的に認められなくても、誰にも見向きされなくても、あなただけは見てくれる。私だけは見ている。という事実が夢への道を歩ませるのだ。

そして、皮肉にも「自分を見てくれた唯一の人」以外の人が現れたときには、「自分を見てくれた唯一の人」はそこにはいない。ある季節が廻り、そして一周した時に、時は流れてもう戻れない月日が流れているのだ。人生における普遍的な悲しく辛い出来事に涙してしまう。

そして何と言っても、どうしても語る上で外せないのがラストのラスト。その切なすぎる結末と、本当に夢のようなシーン。それは彼女や彼が夢見ていた過去でありながら、今ではもう戻れない事実でもある。その美しい、美しいがゆえにとてもとても切ない展開に涙なくしてみることが出来ない。とても壮大なミュージカルシーンが故に、美しく素晴らしいが故に泣けてしまうのだ。そしてそれは切ないということだけでなく、どこか決意のようなものさえ感じるのだ。号泣だった。

楽曲ももちろん最高で、繰り返し聞いてしまう。今年を代表する一作で、とても大切にしたくなる一本だった。賛否両論あるが僕はとても楽しめた一作となった。
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