ベルサイユ製麺

ラ・ラ・ランドのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

ラ・ラ・ランド(2016年製作の映画)
4.0
は?なんで今?って感じですよね。
劇場公開でもレンタル開始でも、『LA LA LAND4』の公開タイミングでもなく。…因みに『4』では、再び宇宙人に侵略されたLAを奪還するために、ピアノの音とシンクロして駆動する巨大な人型兵器で立ち向かうという作品。主演チャニング・テイタム。たどたどしくだが猫踏んじゃったを弾けるようになった!スタントダブル無しで!(※L.L.LANDシリーズが初耳だという方はコメント欄もお読みください!)
…えーとそれで、なんで今かと言うと、最寄りのツタヤでやっと準新作になったからです。入荷から約1年!記憶している限り、もっとも時間がかかった準新作落ちだと思われます。基準が知りたいなぁ。最近観た巨大生物パニック物(タイトルは差し控えます)は3カ月で準新作だったのだけどなぁ。

さて『LA LA LAND』…の前に、監督デイミアン・チャゼルのことですが。
前作『セッション』公開時に“セッション論争”というものがありまして、(気になったらググってみて下さい)事の成り行きを追いかけているうちに、自然にチャゼル監督に対するスタンスがなんとなく定まってしまいました。
私が思うに、⚪︎天性のセンス、テンポ感、心を掴む能力があり⚪︎自身の偏愛を物語の推進力に混ぜ込む技術に秀でているが、⚫︎独善的で⚫︎意味性よりも娯楽性、カタルシスを重視する傾向がある…って、これは完全に作品『セッション』に対する印象なのですが、当時一本しか発表してないのでやむを得ない。『セッション』は、めちゃくちゃ面白いんだけど、人物の行動原理(特に終盤)が全く理解出来ないし、全体としては全然好きじゃない作品でした。…で、『LA LA LAND』を観ての感想ですが、…やっぱり根本的には印象は変わらない。
ごく簡単に言えば、“夢を持った男女が出逢い、お互いの夢に賭ける姿勢に惹かれていく。やがて夢と愛とを天秤に掛けざるを得なくなり…”といったお話だと思います。恐らくは古典的、典型的な男女の物語なのではないかしら。
…ううむ。困った。自分は“夢”の事が何一つ分かれない。目標ならまだしも、夢なんて持った事ない。だから、天秤の片側に載っているものが巨大なハテナマークに思えてしまう。もう一方に載っている“愛”。これは自分なりには分かる気がします。世界中で最も強くて、最も大切なもの。命より大事な、何かと比べるべくも無い唯一無二のもの…。だから、つまり、自分にはこの男女が何をどう考えているのか全然理解出来ないのです。或いは、判断力が麻痺した男女の話としてなら理解出来なくもないか。
自分は基本的に、映画を共感主義的には鑑賞しないように心掛けているので、今作に関しても「ああ、なんて可哀想な人達」と距離をとってしまえれば良いだけの話なのです。でも出来ないの。だってライアン・ゴズリングだから。彼の事は勝手に心が追っかけて深追いしてしまう。だから、この作品で描かれる“天秤”が理解出来なくて、なんだか悲しくて痛々しくて辛かったなぁ。(エマ・ストーンは最初からそういう人に見えた。)あれだけのロマンティックな日々を過ごして、あの決断なのなら最初からそうなる運命だったとしか。…というか両立出来ないのものなのかな?ボクサーが試合前は…みたいなモノかしら?やっぱり全然分かんないや。書きながらだんだん腹が立ってきた。人間はどうやったって自分が気持ち良い方しか選べないようにできているのに。もしもあの時…なんて、運命に対する冒涜だろ?…そうか、それが人間か。

で、物語の核となる部分については置いといて、見た目はもう見事なものだと思います。ミュージカルやダンスに関するリテラシーの低さ故に、どこがどうだとか言えませんが、とにかく格好良いのは伝わってきます。個人的にはライアン・ゴズリングがキビキビと決まった動きをしている!という驚きに、変にソワソワしたり、不思議と心がチクと痛んだり不思議な気持ちになりましたね。
これはもう全くの自業自得なのですが、散々ミュージカルパートの素晴らしさを聞かされたり、パロディなどを見てしまったせいで新鮮さが無く、正直確認作業みたいになってしまっていたのも事実で、きっと何の情報も無しに鑑賞した方は思わず唸り声を漏らしてしまったでしょうね。心底羨ましい…。
ドラマパート自体は、洗練というか落ち着いていてクラシカルな印象。『セッション』の、つんのめるような勢い・スピード感は無くて、チャゼル監督の振り幅、懐の深さを感じられました。音楽ネタではない次作もどうなるか興味深いです。

テーマに乗り切れず、派手な見せ場にもハマり損ねた状態ではありますが、それでもスコア4.0くらいは余裕である、全面的にとても優れた作品だと感じました。(ライアン・ゴズリング点の大きさは否めませんが…。)仮に、全く無名の埋もれた作品とかだったとしたら、性格的にもっともっと高い点数をつけちゃってたでしょう。

ちょっと思うのですが、
映画業界、メディアでの大変な熱狂、批評家やラジオパーソナリティーによる絶賛は、彼等が夢を原動力に表舞台に立った人種であるが故なのではないかしら?
自分にとっては『ムーンライト』や『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の方が、大切な作品です。でもライアンの事はタトゥーで刻みたいくらい好き。もし、顔の無い身元不明の遺体にライアンの悲しげなスマイルが刻まれていたら、それはきっと…。