茶一郎

インクレディブル・ファミリーの茶一郎のレビュー・感想・評価

4.2
 「ヒーローは遅れてくる」と言わんばかりに、前作『Mr.インクレディブル』から、まさかの14年ぶりの続編!『インクレディブル・ファミリー』!
 『スター・ウォーズ Ep6』から『〜Ep1』までの16年に匹敵するほどに長い14年のスパンの間、ディズニー・ピクサーの創始者にして親会社ディズニー・アニメーションのトップにまで上り詰めたジョン・ラセター氏がMeToo運動により引退を余儀無くされる緊急事態。そこに颯爽と現れたヒーローこそ、米アニメ界の天才にして苦労人、本作の監督ブラッド・バードであったという訳であります。

 この『インクレディブル・ファミリー』でまず驚くのは、14年間のギャップをものともしない、本作が『Mr.インクレディブル』のラストから始まる事です。実写映画であったら、子役が結婚していてもおかしくない年月をアニメーションだったら違和感無く埋める事ができる。アニメーションでしかできない語り口!
 そしてその物語の舞台も一作目同様、今となっては『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』、『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』を先駆けていた「ヒーローの能力を規制する法案」が成立している世界です。「ヒーローがいるからヴィランが生まれる」、「ヒーローのせいで被害が拡大する」と、またもや「インクレディブル・ファミリー」は謹慎生活を強いられます。そこで、本作はMr.インクレディブルの奥様・イラスティガールを主役とし、ヒーローの復活物語。加えて、Mr.インクレディブルの苦労子育て物語になっていきます。

 本作『インクレディブル・ファミリー』が優れているのは、(おそらく)ブラッド・バード監督の実体験からくる父親の視点から見た「子育て」を真摯に描いている点。
 さらに、女性の権利が今ほど保証されていない60年代らしきアメリカを舞台に、イラスティガールの活躍と「女性の社会進出」とを重ねて語る社会性が強く心に響きます。女性が活躍する事で、「強くてしなやかな女性が『表に出て良い』社会」が提示され、社会がより一層、澄んだものになる。この『インクレディブル・ファミリー』は、その過程を描いているように思いました。

 確かに二つのお話を軸に語っているため、語りのスピード感は削がれますし、余りにも『Mr.インクレディブル』と同様の展開、何より「コントロールを失った機械を止める」という展開が繰り返されすぎて少し違和感を覚えますが、素晴らしいアニメーション演出により生まれたアクションは必見の価値があります。
 「凡人よ、出る杭を打つな」という事を繰り返しテーマとして扱っているブラッド・バード監督ながら、本作においてはその尖ったテーマも薄まっている印象。やはりブラッド・バード監督はジョン・ラセターに変わる天才であり、本作『インクレディブル・ファミリー』は、前作にも増して「ファミリー」で楽しめる大娯楽作でした。
茶一郎

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