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LION ライオン 25年目のただいまのmatsuitterのレビュー・感想・評価

4.0
総合的に非常に優れた傑作。 #Filmarks2017

好きなポイントは撮影、編集、音楽、俳優。

以下ネタバレ。

まず撮影から。冒頭は息を呑むような美しさの自然の俯瞰ショットからはじまる。それに続く前半は人物を写すシーンがメインなのであまり意識しなかったが、後半の大学以降でグーグルアースを使いだしてから突然気がつく。実は冒頭の綺麗な俯瞰ショットは、グーグルオマージュカメラワークだったわけだ。

実際のグーグルアースの画像は荒い衛星写真で劇的な美しさはない。まあウェブのツールだし。この映画は真上から写すショットと対比することで、実際には雄大な景色があるということを気がつかせてくれる。話が進むにつれて、人がそこに住んでいて、私達と同じように生活があるということも、身に沁みてわかってくる。

次に編集。クライマックスが最高過ぎた。映画後半で主人公のアイデンティティと日常生活、人間関係の葛藤を描いた後、その最後のクライマックスで、グーグルアースで画面の地図をなぞるように追いかける操作と、前半主人公が何気なく自宅周辺を走り抜けるシーンを重ねてリプライズする。このシーンは、気が付かなかったことに気が付いた瞬間の、プリミティブな気持ちの動きそのもの。この編集にはマジカルな衝撃があり、掠れて消えそうな幼少の記憶が蘇る気持ちの動きとともに、主人公に起きた奇跡を追体験させてくれた。

結論グーグルアース的な俯瞰カメラも、普通に撮影された人物視点のカメラも、最後のこのシーンのための大いなる布石だったのだ。主人公が幼少期にみた自宅周辺の風景は、我々観客が1時間半前に映画内で観ていることで、同じ記憶のフラッシュバックを引き起こす。この体験があればこそ際立つ編集となっているのである。

音楽も大変素晴らしい。クライマックスでもシンプルなリフレインだけという攻め方が上手すぎた。静かに人が気持ちの深いところを探る精神状態を巧みに再現していた。

俳優陣も極めて魅力的だった。
後半の主人公デーヴパテールにはなんとなく岡村靖幸的なセクシーさがあり、悩むシーンの表情には釘付け。
ルーニー・マーラは何をやっても完璧なヒロインで、黒タイツがこれ程似合う女はいないと改めて確信。
ニコール・キッドマン、2人の息子たちを心配して悩みつつも信念を語るシーンは圧倒的な迫力。鑑賞前は地味な配役かと思ったが、蓋を開けてみると助演女優賞ノミネートも納得の存在感だった。
子供時代の主人公には憎めない可愛らしさがあり感情移入できた。

余談。

脚本は変に劇的なことを重ねたりはしない。そこに強いリアリティを感じた。ドラマティックなのはほんの一瞬。実際人生とはそういうものだろう。

#Filmarks2017
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