磔刑

イット・フォローズの磔刑のレビュー・感想・評価

イット・フォローズ(2014年製作の映画)
1.4
「フォローズを探せ!」

設定はそこそこ面白いしロングショットやフルショットを多用し、画面を構成する事で画面上の何処かにいる“それ”を意識させようとするホラー演出は上手いなと感じる。“それ”の設定も都市伝説や『ジョジョの奇妙な冒険』のスタンド(“ハイウェイスター”と“チープトリック”と“リンプビズキット”を足して3で割った感じ)の域は出ないものの、ホラーの常套手段であるワープを使わない点は個人的には好意が持てる。加えて“それ”が徒歩で追いかけてくるという縛り(ルール)を終始守っている点も良い。
しかしながらワンシチュエーションのホラー作品でありながら、最初にぶち上げた設定を生かすストーリーや演出を製作陣が考えていなかったのが透けて見えるほど物語は起伏に乏しく、間延びしており退屈だ。

“それ”が追いかけてくるシークエンスはホラー的緊張感が作用しており、観るに値する。しかしそれ以外のシークエンスはCクラスの演出で観るに値せず、作品全体のバランスが非常に悪い。シチュエーション系ホラーのあるあるなのだが、観客は早い段階でホラー設定を理解し作品の世界観に順応するのだが、肝心のキャラクターが設定を理解し順応するのが遅い為キャラクターと観客の意識の乖離が大きくなり、共感すべき人物を失い物語の運びにストレスを感じる事がまま有るが今作はこの事象にモロに該当している。
主人公が“それ”を移された時に大まかな設定は説明されているにも関わらず(この段階で観客は理解し適応している)主人公は一切理解しようとせず、加えて感染源の元彼に再び遭遇しても「有り得ない」と一蹴し、全く話しが進展せずにイライラが募る。せめてこの段階で登場人物全員が“それ”に対する意識を改め、打開、解決に向かって話しを進めれば意味のあるシークエンスと言えるのだが、人物の意識も現状も結局は変わらなかったのでこのシークエンスの必要性をそもそも感じない。

加えて登場人物が不必要なまでに多い為緊張感が薄くなり、その割には死人が少なくアンバランスだ。“それ”に追われているにも関わらず、元彼の家での座談会や友人の別荘で寛ぐ姿はまるで『テラスハウス』の様な緩さである。追われてる方がもっと必死に生に執着しなければホラーとしての設定が死ぬだけではないか。
特殊な設定のホラー映画なのだから早めに設定に乗っ取って他者に感染させる。或いは“それ”の発生源を辿り根本的な解決に乗り出すかでドラマを動かせば良いものの、終始どっち付かずで作品に対する興味より圧倒的に退屈が勝る内容だ。オチも想像の域を全く出ないし、あのありきたりなオチを使うにはキャラクターの努力が全く足りないのでカタルシスのカケラもない。設定の段階で『リング』と似ているなと感じたが似ているだけで只の劣化でしかない。

まぁ、確かに“それ”は何かしらのメタファーなの“かも”しれないし、製作者のメッセージが強く込められている作品なの“かも”しれない。それは作品内で度々唐突にぶち込まれる引用が示しているの“かも”しれない。
しかし待って欲しい。本当に何か伝えたいメッセージがあるのならこのシチュエーションやホラー設定は果たして正しく、有効かつ効果的なのだろうか?逆に設定が目につき過ぎて伝わりにくかったり、まどろっこしかったり、テーマと設定が足を引っ張り合ったりしてないか?
“それ”から逃げてる筈が逃げ場のない浜辺に行ったり、悠長にブランコに乗ったり、何故か車のボンネットの上で寝たり。製作者からしたら“メッセージ性が込められた演出”なのかもしれないが、一貫性のないキャラクターの不可解な行動は表面上のストーリーを軽視する行動だし、それ故肝心なメッセージの重みすら失っている様に思える。

そもそも表面上のストーリーはホラーなのだから“ホラー映画のエンターテイメントとしての完成度”が最優先事項であり、そこから生まれる観ている側の「面白い」「怖かった」という率直な感想が作品の成功の大前提だ。そしてそれを越えた先、その奥次の段階でようやく“メッセージ性を読み解く”という過程、意識が観客に生まれるのではないだろうか?個人的にはその大前提であるエンターテイメントとしての魅力を全く感じれなかったので「実はメッセージ性があります!」とか言われても「ふーん」としか思えない。
そもそも直接的な引用を過剰使用するのは物語のテンポを悪くするナンセンス演出だ。
磔刑

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