秋日和

山河ノスタルジアの秋日和のレビュー・感想・評価

山河ノスタルジア(2015年製作の映画)
4.5
火、と聞いて人は一体何をイメージするのかな、なんていうことをこの映画を観て思った。自分がパッと思い浮かぶのは、危険や情熱、愛情、儚さ……といったところだろうか。一般的にもなんとなく、良いイメージと悪いイメージの両方が挙げられる気がする。
この映画では、至る所に「火」が現れる。パッと咲いてはすぐに散る花火や、供養の為にくべられる火、或いは轟音と共に立ち込める炎……。妻が夫を看病するときに手に持っていた蝋燭の火や、煙草を吸うときにつけるライターの火なんかもそうだろう。


1999年から2025年までの26年間を描いた本作は、過去の映画である一方、現在の映画でもあり、そして未来の映画でもある。「人生は同じことの繰り返し」といった台詞が劇中でポツリと呟かれるものの、あの頃と今が同じだなんてことは決してない。嘗ては2人の男から愛され、その愛が彩られたかのような真っ赤なコートを着たチャオ・タオが年齢を重ねるごとに地味で質素な服を身に纏っていくように、着実に変化は見受けられるのだ。愛情や名前など、劇中で「変わってしまったこと」を挙げたらキリがないくらい、残酷なまでに時は移ろいでゆく。
でも実は、変わらないことだって中にはあるのだ。例えば、チャオ・タオの作る料理のメニューは変わらないし、昔に歌われた曲だって変わらない。彼女の身に沁みついた踊りはそのままだし、犬だって相変わらずそこにいるじゃないか。


変わってしまうこと/変わらないこと。その二つの橋渡しをしているのが「火」なんじゃないかと、自分は思う。聖火リレーなんていうご立派なものでは決してないけれど、親と子を繋いでみせる「身体に悪い」ある行為が、なんだか過去から未来へのバトンパスのように感じてしまったのだ。あくまで自分の勝手な解釈なのだけど、そう思った途端に涙が溢れて仕方がなかった。厳しくも優しい。辛いけど温かだ。ジャ・ジャンクーありがとう。今年観た新作の中で、最も大切な作品になりました。


「一緒に自分たちの道を突き進もう
一緒にいつかはここから出て行くのだから
一緒に手と手をつないで
一緒に計画を実行しよう
一緒に空高く飛んでいこう
一緒に友達全員にさよならを言おう
一緒に新しい人生を始めよう
一緒にこれが僕たちがするべきことを始めよう」
(『Go West』より)
秋日和

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