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山河ノスタルジアの一人旅のレビュー・感想・評価

山河ノスタルジア(2015年製作の映画)
4.0
ジャ・ジャンクー監督作。

激変する中国社会で生き抜く女性の愛の半生を描いたドラマ。

『長江哀歌』(2006)でヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞した中国第六世代の鬼才:ジャ・ジャンクー監督による叙事詩的人生ドラマの佳作で、山西省汾陽出身の女性:タオを主人公にして、激変する中国社会における主人公の愛と苦悩の半生を過去・現在・未来の3つの時代に分けて描き出しています。

1999年:主人公と彼女を巡る炭鉱労働者と実業家の愛憎関係の行方を描き、2014年:未だ汾陽で暮らしている主人公と最愛の息子の再会、そして2025年:舞台を中国からオーストラリアに移して、成長した息子の視点により異国に取り残された母への愛情を丹念な心理描写で見つめています。

20世紀末から始まる中国社会の激変を画面に反映させた作風が特長で、石炭→石油への主要エネルギーの変遷や、資本主義の発展に伴う富裕層の出現と経済的格差、そして豊かな人生獲得のため欧米先進国への移住の進展と子供の国際教育への熱心といった、約25年間に亘って移り変わりゆく中国社会の実際を映し出しながら、変わり続ける中国社会の中でも決して失われることのない母と息子の普遍的な愛情を儚くも力強い筆致で謳い上げています。変わりゆく中国に生きる市井の人々の心情に寄り添った作劇は同監督の『長江哀歌』と同様のテーマであります(『長江哀歌』ではダム建造によって沈みゆく運命にある古都:奉節に生きる人々の姿を見つめています)。

主演はチャオ・タオ。彼女はジャ・ジャンクーの常連女優として知られています。表情にはやや硬さがありますが、息子を想う母の心情を繊細に体現しています。
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