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山河ノスタルジアの小のレビュー・感想・評価

山河ノスタルジア(2015年製作の映画)
3.9
過去、現在、未来の三つの時代にわたって展開する中国のヒューマンドラマ。主役は母と息子。

1999年、炭鉱で働く男性と実業家との三角関係の末に、母となる女性は、羽振りの良さそうな実業家と結婚。父親は生まれた息子を米ドルにちなんで、ダラーと名付ける。

2014年、別れた夫と暮らす息子と母親が葬儀を機に再開。息子はオーストラリアに移住することを知る。

2025年、息子19歳。異国生活で中国語をすっかり話せなくなり、父親との意思疎通もままならない。アイデンティティーを見失って苦悩し、中国の母を思慕する。

フライヤーによるとジャ・ジャンクー監督は<デビュー作『一瞬の夢』以来、いかなる作品でも市井の人びとと同じ目線に立ち、彼らの営みから“中国のいま”を映し続けてきた>という。だから、これは中国の人なら、とても共感できる物語なのだと思う。

まず感じるのは、とにかく実利優先で現実的な姿。結婚相手はお金持ちを選び、息子の親権を夫に譲ったのも、良い教育ができそうだから。

とにかく金銭的、物質的に裕福になりたい。子供に教育を施して、お金を、外貨(ドル)を稼ぎたい。この映画通じて感じるのは、そんな中国国民の姿。

しかし、その結果はあまりよろしくない。持たざる者の炭鉱の男性は落ちぶれ、底辺で固定化。一方、打算で選んだ結婚は破綻。成金の実業家は、オーストラリアでお金だけはある自分自身を持て余している感じ。

期待の息子は知識は吸収できたかもしれないが、親からの愛情を十分に注がれなかったせいか、自分を見失っている状態。

中国の人は、西洋諸国を目指して(「Go West」)躍起になって頑張ってきた結果がこれか、と自分を投影し、思わず涙してしまうのだろう、きっと。

最後のシーンはそんなせつなさを象徴しているのだろう。この後に及んで、まだそうなのか、と。背景がわかっていないと、ナニコレ? とポカーンとしてしまいそうだけど、中国の人ならグッときてしまうに違いない(自分はポカーン派でした)。

一方、2025年の母と息子の関係の描き方は、良く考えると上手いのかも。二人が会うシーンはないけれども、母親は「Go West」な息子のことをそれで良いと思い、心に穴の開いたダラー君は、母親を恋しく思う。ダラー君の気持ちは、エッと思ってしまうような描かれ方を通じ、良くわかる。

ダラー君は悪くない、ダラー君に幸あれ、と思ってしまう。この点がまた、中国の人にとっては感涙ポイントなのかもしれない。

予備知識なく見たため鑑賞後は、なんのこっちゃ?という気もしたけど、こうしてじっくり振り返ってみると、面白そうな映画ですね。
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