horahuki

第七の犠牲者のhorahukiのレビュー・感想・評価

第七の犠牲者(1943年製作の映画)
4.4
死は善…😭

リュートン×ロブソンの傑作!超好き!
姉が行方不明に…。数日前の目撃情報はあるのにどこにも見つからない。しかも姉が暮らしてた部屋の天井には首吊り用のヒモ…😱朧げな姉の面影を辿って街を行くうちに様々な恐怖現象に見舞われ、自分が知っていた姉のイメージがどんどん覆されていく…。

「不在」を延々と追いかけるうちに、今まで姉だと思っていた者が自分の中でまるで別人と化していき、どんどんとイメージが混濁していくのが堪らなく好き。姉ってなんなの…?的な。「不在の実在」を描くという点では、やはり『レベッカ』の影響(リュートンはヒッチコックとも親交があったらしい)だろうし、そのヒッチコック『サイコ』に影響を与えたと良く言われているシャワーシーンがあったりと巨匠同士の関係性が熱い!!

ちなみに監督のマークロブソンはウェルズの『偉大なるアンバーソン家の人々』やターナー作品で編集をしてた人。それもあってターナーみが凄い!『キャットピープル』のヒットでAクラスな予算でOK出てたのに、あえてそれを断りBクラスで作成することで外野に何も言わせないようにしたリュートンさんも相変わらず素晴らしい!

主人公姉妹は孤児。(恐らく)キリスト教の寄宿舎で育った主人公は化粧品工場を経営してる姉の仕送りで暮らしてる→姉からの仕送りが突然ストップ→え?姉なにしてんの?→探しに姉のいるニューヨークへ→どこにもいない…っていう流れ。その不在の流れから「生と死」についての形而上学的な問題へと発展していくのは、現実世界で起こっている戦争と絡めることで非常にペシミスティックな奥行きが生まれてきて良かった!

姉は悪魔崇拝集団に属していたことが割とすぐにわかるんだけど、DVD解説によれば姉は同性愛者で当時の時代的な抑圧から望んでいない異性婚を選択したというのが通説らしい。そのあたりに世相への反抗としての悪魔崇拝者の選択意図も浮かびあがってくる。主人公がキリスト教寄宿舎から出る時に「もう戻ってくるな。生きていくには勇気が必要」とアドバイスされ、実際に男性からの言葉に「私に命令をするな」と強気に反抗する姿にも旧来的・男性的価値観→フェミニズムという当時としては先鋭的な内容となっているのも驚き。

批判を恐れてか、古くから継承されてきた規則・ルールの矛盾に思い悩む信者たちをキリスト教ではなく対抗馬である悪魔崇拝者の中で描き隠れ蓑とすることで強調し(恐らく7つの大罪のパラレルで姉は怠惰の派生な気がする…)、「自殺の強要」という戦争批判も盛り込む。そんな虚しさしかない社会に突きつけられる扉越しの「音」のインパクトは映画史に残すべき素晴らしいシーン!

ターナー『キャットピープル』『レオパルドマン』のような夜の帰り道のトラッキングの不穏な雰囲気が素晴らしく、冒頭で「喧騒」を扉の向こうに封印した妹と呼応するかのように「喧騒」が姉を救うというカチッとハマる感じが気持ち良い!殺害シーンでの2人にかかる光と闇の対比、ずっと規則正しく流れる時計の針の音、そして表情を見せないトラッキング…と鳥肌たつレベルの美しさ。そこからの地下鉄での行って戻るという心的治療過程の中に投入される核爆弾クラスの恐怖等々恐怖演出の素晴らしさは流石のリュートン!

彼女の部屋番号から既に「死」は決まってるわけで、それに向かい一方通行で進んでいく感じは『プロミシングヤングウーマン』みたいでもあるな〜と思った。『プロミシング…』は復讐したけど、本作はしない。それこそ時代抑圧の力の差なのだろうし、「死は善だ」と語ったリュートンの皮肉屋な感じも好き。すんごいよかった!
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