堊

アンナと過ごした4日間の堊のレビュー・感想・評価

アンナと過ごした4日間(2008年製作の映画)
3.9
冒頭で反復されるストーカー描写や度々姿を見せる「鏡」でこの監督が『早春』と『出発』の監督だということはわかる。が、しかし鮮烈な色彩は本作では一見すっかり鳴りを潜めたように見える。『アベンジャーズ』に出演した際に「一本の映画を撮るよりもこうした映画の端役に出たほうが金になる」なんてスコリモフスキ自身がシニカルに語っていたとおり、本作はおそろしいほど低予算だ。本作には決して『アベンジャーズ』に出るような有名俳優は当のスコリモフスキ本人を除いて出演していない。だが、それでも本作はわかりやすく「エモい」。それは決してハンスジマー風にうるさく鳴り響くサウンドトラックやそれと同期させた編集のせいではまったくない。にもかかわらず、この映画に奇妙な愛着を憶えるのは、もっぱらそのごく僅かなポーランド映画で名が知れているだけの"無名俳優”にすぎないアルトゥール・ステランコの演技に拠っている。なぜそこでコケるのか、なぜそこで落とすのか。不格好でありながらなぜか落ち着いてしまう二度の貧相な椅子への着席は痛ましく画面を震わせつつもそれを見ているわたしたちに笑みをこぼさせる。そして画面内を運動で満たす彼に呼応するかのように鮮やかにカメラは彼を伴って灰燼の中を滑らかに横移動してみせる。終盤で取調室に至りはじめて目をあけて向かい合うふたり。決してその互いの指にクロースアップしたり伴奏を差し込むようなはしたない演出は控え、ただ彼女は立ち上がる際に決して彼に対してかつてみせたことない愛おしさでもって机の木目をゆっくりとなぞる。彼らの触れ合うことのなかった喜劇はここでようやく悲劇へと結実する。我々はこうして本作が決して簡単に要約されてしまうような地味で静かな作品ではなく、そして、スコリモフスキが「エモ」の人であることを思い出す。
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