垂直落下式サミング

フォード・フェアレーンの冒険の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.7
音楽業界のトラブルを華麗に解決するロックンロール探偵のフォード・フェアレーン。彼を演じる怪男児ダイスマンの問答無用で画面を支配する一斉一代のゴキゲンな超演技が見物だ。太いモミアゲ、デカいサングラス、肩パッドジャンパーを身に纏うガッチリリーゼントの男。ダサいのかクソカッコイイのよくかわからないその出で立ちは「強烈」と表現する他なく、とかく一人の人物を構成する要素として目に入ってくる情報量が多すぎるのだ。そして彼の一挙一動がヤバイ。こんなキャラクターを扱った物語を成立させたのは奇跡なのかもしれない。いや、ただ産み落とされてしまっただけで、作品として成立などはしていないのかもしれない。だが、画面のなかには確かに映画史上最高の男が存在しているのである!
ダイスマン(アンドリュー・ダイスクレイ)は毒舌芸で一世を風靡したアメリカのスタンドアッププコメディアンだ。彼の漫談をYouTubeでみたが、面白いんだか面白くないんだか、よく分からない。日本で言うとタブーやゴシップに目敏く斬り込む爆笑問題とか辛辣なジョークで場を凍り付かせてきた有吉の芸風に近い気がする。ただ、ダイスマンのネタは非常に稚拙で全く理性的・論理的な後ろ楯がない。言ってしまえばただの悪口で、Fワードやうんこちんちんネタを多用し、人種差別、女性蔑視、同性愛嫌悪から宗教政治批判に至るまで、目に映るものすべてが攻撃対象だったのである。どんな奴だろうととりあえず殴りかかるその骨太サーキャズム!なんて男なんだ!クズ過ぎる!
上手いこと立ち回れば、もしかしたらエディ・マーフィやロピン・ウィリアムズと似たような地位にいけたかもしれないようなやつだが、まぁ、火のない所にわざわざ放火して消し炭に小便をひっかけるような芸風の大馬鹿者が、たとえ崇高な理念を持って漫談をしていたとしても尊敬には値しないわけで。
反ポリコレのクズをコメディの主役にした大味な映画なのだが、どこか愛らしく特殊な魅力を放つ。というのも、作り手達の映画制作に対する真面目な姿勢が伝わってくるからだ。こんなゴミを真剣に作ってくれてありがとうレニー・ハーリン。