荒野の狼

バトル・オーシャン 海上決戦の荒野の狼のレビュー・感想・評価

5.0
『バトル・オーシャン 海上決戦』(バトルオーシャン かいじょうけっせん、原題:명량 英語題名 The Admiral: Roaring Currents )は、2014年公開の韓国映画。オリジナルは128分だが、日本のDVDや配信サービスでみることができるのは、110分版。英語字幕のものが無料動画で見られるので、カットシーンを視聴することは可能で、オリジナルと比較すると、シーン全体がカットされている部分と、シーンの一部がカットされているものがある。主なカットシーンは、来島通総(演、リュ・スンリョン)が脇坂安治を臆病者として対峙するシーン、来島が何故参戦したかについて語られるシーン、最終盤の主人公イ・スンシン(李舜臣)と息子の対話(勝利は神のGrace(ご加護)による。Graceは民衆で渦流ではない)。いずれも映画を理解するには大事なシーンであり、この部分が特に反日であるわけでもないので、何故カットしたのか理解に苦しむ(時間を短縮することが目的であれば、やや冗長な戦闘シーンなどはいくらでもカットできたはずである)。本作では、朝鮮軍でも臆病・卑怯なメンバーがおり、また、最狂とも思えた敵役の来島は、イ・スンシンに一定のリスペクトを持っており、最終決戦では、弁慶の立ち往生すら思わせるように武士らしく戦っているなど日本軍が全くネガティブに描かれているわけでもない。完全版の日本での販売・配信を期待したい。

本作で描かれているのは秀吉が朝鮮半島に出兵した文禄・慶長の役のうち、後半の慶長の役。本作はイ・スンシンが主人公の三部作であるが、第二作『ハンサン -龍の出現-』は文禄の役を扱っており、第二作のほうが時代が早くイ・スンシン役の俳優も異なり(第二作はパク・ヘイルが演じる)、その他の登場人物の役の設定も異なる。たとえば、本作では敵役のトップである来島に臆病者とさげすまれて、影の薄い脇坂(演、チョ・ジヌン)は、第二作では若くギラギラした見事な敵役(演、ピョン・ヨハン)である。本作で他に大きな役で登場する日本の武将は藤堂高虎。来島と脇坂(”賤ヶ岳の七本槍”ではあるが)は、日本では無名であり、藤堂高虎は大阪城の築城といった築城の名手ということしか知られていないので、多少、史実と異なる部分はあっても、これまで影の薄かった戦国時代の武将がユニークに登場するということでも貴重。

本作で描かれているのは1597年の慶長の役の鳴梁海戦(めいりょうかいせん 명량 해전 Battle of Myeongnyang)で、戦闘の中心は、朝鮮半島の南西の全羅道沿岸の鳴梁渡で、珍島と花源半島との間にある海峡であり、潮流が速く大きな渦を巻いている航行の難所。原題:「명량」は「「鳴梁(ミョンニャン)」」。は圧倒的な戦力の日本軍にイ・スンシン(演、パク・ヘイル)が決死の闘いを挑む。文禄慶長の役は、日本では耳塚・鼻塚が京都があるが、その程度しか一般の日本人の知識は低い。本作では、耳や鼻を削いだというエピソードの紹介だけでなく、斬首の場面などもあり、戦闘の進捗、日本軍と朝鮮軍、朝鮮半島の一般民衆も描かれており、他作品で文禄慶長の役が描かれることはないので歴史映画としても貴重。映画で描かれている歴史的事実との差異を議論する前に、現在でも韓国国内で本作が歴代観客動員数1位にランクされるほどに関心の高い歴史的事件が、日本ではカット版の映画でしか視聴できないことが問題。
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