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二重生活の小のレビュー・感想・評価

二重生活(2016年製作の映画)
3.3
論文執筆に悩む哲学科の女子大学院生が、教授のススメで「無作為に選んだひとりの対象を追いかけて生活や行動を記録する」“哲学的尾行”を実践する。

人を尾行すること自体スリリングな行為なので、ドキドキハラハラするはするけど…。

女子大学院生は、自我にポッカリ穴が空いている(自分に何かが欠落している)と感じていて、それが何なのかが良くわからない感じ。そして、尾行していくうちに、その穴が埋まりそうな気がするという。そのことについて、劇中のある人が思ったであろうと同様に、私も「アホくさ」と思った。

この映画の個人的なキモは、哲学的尾行の効果に共感できるかどうかではないかと。

(以下からはネタバレかもしれません。)

映画によれば、哲学的尾行を実践すると、「他者は自己にとってかけがえのない存在であり得ることを理解できる」らしい。

この点について、まったく共感できなかった。私は哲学的尾行をやったことがないから、映画のような理解は、極めて確率の低い偶然がないと生じないとしか思えない。だから「アホくさ」感が先に立ってしまう。

とりあえず、哲学的尾行の効果を認めるとすれば、女子大学院生が尾行によって、自我にポッカリ空いた穴の正体を理解してモヤモヤした迷いを払拭し、成長する物語だと思う。ついでに言うと、同じように穴の空いた人がもう一人いたことをオチで明かす点が、ちょっとしたスリルなのかもしれない。

いずれにしても、この物語の面白さはもっぱら尾行という行為に依存していると思う。そもそも尾行というネタありきではないのか、という気すらしてしまう。

もし哲学的尾行に効果があったとしても、自我にポッカリ穴の空いた人限定のような気がする。いろいろ考えてみても、「やっぱりアホくさ」と思う自分は、ひょっとしたら、穴が空いていないのかしら?
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