ひろくん

たまゆら 卒業写真 第4部 朝 あしたのひろくんのレビュー・感想・評価

3.5
これから、あるいは今まさに、受験産業の食い物にされ、多くの場合は収入に結びつかないスキルを安くない金で買うことになる少女たちの物語、と言ってしまえばそれまでで、この作品の言いたかったことは「そのようなことには薄々気付きつつも、自分たちで困難を乗り越えようとする姿」であり、かつ肝要なのは「視聴者は彼女らの父親の不在によりその目線を疑似体験できる」ということである。フィルムコンデジしか使ったことがない、オートフォーカスもよく知らない、何の変哲もない知人を撮ったスナップのポートフォリオで入学できる写真の学校にはたぶんあまり通う意味はないのだが、それでもそんな少女には確かにフルサイズ一眼レフを大三元一本つけて贈りたくなってしまう、これが親心である。そしてそんな少女たちの夢につきあうために夏目をはじめとする“父親”は、この作品では決して描かれることのない様々なハラスメントと職務上の重圧に晒されながら働くのである。作品の外部においてそのような機能を前提としているからこそ本作のリアリティは担保される。それはひとえに彼女らの想いの軽視にほかならならず、同時に差別的な構造の温存であり、そういったことを前提としつつも黙認した上で彼女らは一歩ずつ夢に向かって進むのだが、そのこと自体は彼女らの責任の範疇にないのだ。誰かが「それでは食っていけない」と言わなければならない場面が訪れなければならないのだが、誰もその責務を全うしない。だからこそ「そのことに薄々気付いている彼女たちは、誰に何を言われても、あるいは言われずとも、自分たちだけで困難を乗り越えられるようにネットワークを作り上げている」のである。知らないうちに、こちらから言わないといけないことも言えないうちに、甘やかされて育っただけと思っていた少女たちは着実に成長する、実はそこまで織り込んで作ってある作品だということは言っておかないといけないだろう。
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